「ART news JAPAN 」より | ヤドリギ金子のブログ

「ART news JAPAN 」より

 大贋作事件でカナダのアート界が揺れている。先住民族にルーツを持つカナダの国民的画家、ノルヴァル・モリソー(1932-2007)の贋作が1500点以上も見つかったのだ。話はそれだけで終わらない。このほど、逮捕された贋作者の1人が供述を始め、製造した贋作は数千点に上るとした上で、贋作を大量生産するための驚くべき手口を明らかにした。
 自ら編み出し、「ペイント・バイ・ナンバー」という名前までつけたこの手法は、モリソー作品の輪郭を模写し、それぞれのパーツに、「G」は緑、「B」は青などの色を指定する記号を振って画家に彩色させるというもの。このモリソーの贋作はカナダのオークション会社に流され、1枚あたり現在の為替で約12万から79万8000円で販売されたが、中には約342万円になったものもあったという。
 このように1度に大金を得ることができる贋作は、美術の歴史が始まって以来絶えることはない。世界最古の贋作と言われているのは2000年以上前。古代ローマの彫刻家たちが、古代ギリシャの彫刻のコピーを制作し販売していたという。だが当時はあまり作者は重要ではなく、買い手の方もコピーと分かって購入していたようだ。ルネサンス後、民衆が豊かになってくると美術品の需要が高まり、作者によって価値が大きく変化するようになった。そこで画家たちは、作家を識別出来るよう作品にサインを入れるようになる。その頃から贋作が本格的に製造されはじめ、それにまつわる様々なドラマが繰り広げられるようになった。
 例えば、北方ルネサンスの画家アルブレヒト・デューラー(1471-1528)は、自身の版画のスタイルを真似て、デューラーのサインを入れた作品が世に出回った事を知り激怒。その後、本の形で出版した19枚の木版画シリーズ《聖母の生涯》(1511)の序文に「他人の作品や発明を妬む盗人どもよ、われわれの作品に軽率な手を出すな」と書き記した。一方で、カミーユ・コロー(1796-1875)は生涯に700点以上の作品を描いたが、模写されることを光栄に思い、なんと他人による模写にもサインをしたという。
 また、贋作者の中には、自らの名前を入れて販売した人がいる。映画『F for Fake(邦題:オーソン・ウェルズのフェイク)』(1973)の題材にもなったエルミア・デ・ホーリーは、ルノワール、ピカソ、モディリアーニなどの贋作1000点以上を製造したが、その価値が高く評価されたため、「ホーリーの贋作」として市場に出回ったという。
 美術の歴史において贋作のエピソードは尽きるところが無く、無感覚になってしまいがちだが、作家やその関係者、ファンにとっては非常にショッキングな出来事だ。現在、モリソーのコレクターは、「もうモリソーの作品は買えない」と嘆き、モリソーの管理団体「Morrisseau estate」も故郷カナダを離れて再スタートを切る検討をしているという。