ブルノ旅行記の続きです。
前回の記事
私がブルノに行きたかった理由、それはひとえにモダニズム建築の原点とも言われるミース・ファン・デア・ローエの「トゥーゲントハット邸」を見たかったから。
邸宅の中を見るには、かなり前からガイドツアーを予約しないといけません。
庭から外観を見るだけでしたら、庭だけに入れるチケットは当日でも買うことができます。
私は3ヶ月前に予約しましたが、その時点で既に、日程によっては売り切れの日時もありました。
私は、ブルノ旅行はまずはトゥーゲントハット邸の予約を取って、その日程に合わせてスケジュールを組みました。
少し郊外ですが、市の中心部からトラムで簡単にアクセスすることができます。
トラムを降りたら、子供病院の横の坂をまっすぐ登っていきます。
しばらく行くと豪邸ばかりのエリアになって、立派な家を眺めながら住宅地を10分ほどひたすら真っ直ぐに歩くと、トゥーゲントハット邸に出ます。
この柱がインターフォンになっていて、庭だけを見たい人は、ここでその旨を告げると、チケット売り場に入れてもらえます。
私たちは、日本人の性を発揮して、開始15分以上前に着いてしまいましたが、係員がやってくるまでひたすら外で待たされます
座って待つような場所もないので、時間ギリギリに来た方がいいかもしれません。
開始時間ちょっと前に係員の方がゲートを開けてくれ、チケットオフィスで予約の確認をされ、ツアーはテラスからスタート。
美しい庭とブルノ市街の眺望が素晴らしいテラス
そしてトゥーゲントハット邸の建設の経緯と辿った歴史の説明を受けたあと、ついに1階から屋内へ。
屋内の写真を撮りたい場合は、別途、写真撮影代を支払ってステッカーを胸に貼ります。
その支払いをしたのは、私と、もう一組のチェコ人のご夫妻だけ。
旦那様が奥様のためにステッカーを買いに行かれ、奥様が一生懸命写真を撮られていました。
ガイドさんに熱心にチェコ語で質問されたり、細かいインテリアの細部をチェックして写真を撮られたりしていたので、インテリア関係のお仕事をされているのかな
とってもおしゃれで素敵なご夫婦でした。
英語のツアーだったのですが、もう1組チェコ人の女性二人組がいて、その人たちは見るからにリッチ風なファッション。
一目で「シャネル!」「ヴィトン!」とわかるハイブランドのファッションと小物で、頭の先から爪先までコーディネート。
ブロンド美人で、ヒルトン姉妹(古い?)みたいな雰囲気。
この人たちが、説明とかまーったく聞いていなくて、とにかくひたすらセルフィーやお互いの写真を撮りまくる
私はインテリアの写真を撮りたいのに、彼らが邪魔すぎる〜
そして写真撮影代も払ってないけど、本人たち、全く気にしてない
インスタとかに上げまくるのかな……と、他の参加者はみんな真剣に建築を楽しんでいる人たちだったので、この二人の違和感が半端なくてゲンナリしました……。
そんな話は置いておいて、トゥーゲントハット邸はとにかく素晴らしくて。
第二次世界大戦前、織物産業で栄え、東のマンチェスターと呼ばれていたというブルノ。
妻の家族が織物事業で財を成した一家で、トゥーゲントハット氏も妻の両親からこの敷地を譲り受け、当時ベルリンに住んでいた夫婦は、妻の希望で、当時から大評判だったミース・ファン・デア・ローエに自宅の建設を依頼。
(建設費も妻の両親が出したのだそう)
ファン・デア・ローエは最初、そんな東側に建築するのは気が進んでいなかったらしいんです。
でも下見に来てみたら、ブルノの街と、丘の上のこの敷地の立地をとても気に入り、建築依頼を受けたのだとか。
でも条件は「私の建てたい通りに建てさせること」。
建築中、あまりにサイズの大きなドア(床から天井まである)に、トゥーゲントハット氏が「こんな大きなドアにする必要があるのか」と難色を示したら、ローエは「言う通りにしないんだったら建てない」って言い放ったんだって
これがその噂のドア
玄関ホールから中に入るには、リノリウムの床を傷つけないように、靴カバーを機械で装着します。
1階はトゥーゲントハット家の私的空間で、夫婦それぞれの部屋や子供部屋、ナニーの部屋などがあります。
ナニーの部屋も素敵で、住み込みベビーシッターになりたいって思ってしまった
この家の中で、唯一インテリアがローエの手によるものじゃない部屋が、子供部屋。
子供たちが小さかったので、まずはブルノのインテリア会社がデザインした家具を入れ、大きくなったら、ローエデザインの家具に入れ替える予定だったのだって。
でもそうこうするうちに第二次世界大戦が勃発し、ユダヤ人だったトゥーゲントハット家はたった8年しかこの家に住むことがなく、スイスに亡命したのだそう。
その後もゲシュタポが占拠したり、戦後はロシア軍が占拠して、なぜか燃えにくい木材なのに、わざわざ本棚を壊して焚き火をしたり(ガイドさん、かなりご立腹のご様子でした)、ダンスのアトリエや子供病院のリハビリ室になったり、数奇な運命を辿ったこのお屋敷。
お屋敷の歴史を辿るだけでも、とても興味深くて、記事が長くなってしまう〜。
通りから見たら質素に見えるお屋敷ですが、庭側から見ると、その洗練された建築美が一目瞭然。
資産家であることをひけらかすことなく、身内だけで贅を楽しむという趣向なのだとか。
1階のプライベートな空間も美しいながらもとても質素。
ドアを閉めたら、来客はプライベートな部分を目にすることなく、地下の来客用スペースに直接行けるように設計されています。
そして地下に降りたら……。
そこは本当に息を呑むような、贅沢な空間の美
この邸宅のためにデザインされた美しいトゥーゲントハットチェア。
美しすぎる骨組み
リビングには、一枚の大きな窓ガラスが機械制御で下におり、完全に窓を無くすことができる箇所が2箇所あります。
地下ではその仕組みも見られるのですが、舞台装置のような、かなり大掛かりな仕掛けです。
自然と空間の一体感、空間同士のつながりを大切にした、ローエらしいこだわりのデザイン。