難民システムは機能していない。難民たちの受け入れを拒否する豊かな諸国へ、仕事やチャンスを求める移民の大量難民申請が起き、受入国で移民・外国人排斥の政治問題化が、極右の政治団体やポピュリズムを広めている。こうしたThe Economistの主張に、私は同意します。 

 

戦争や災害、政治的迫害から逃れる人びとを受け入れる責任がある、と認める国が、本当は経済的な機会を求めて「難民」として流入する人びとを拒む決意を固めています。他方で、介護や流通、コンビニなど、外国人労働者に頼る産業分野は増えています。 

日本政府が理不尽に抑圧する「不法」滞在者、難民申請者の問題を、国際移民・難民システムの改革・構築に日本政府も参加することで解決すべきだ、と考えて、数年前にポール・コリアの紹介論文を書きました。 

 

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トランプが解体する国際システムの先には、政治経済学のフロンティアがあると思います。弱肉強食のジャングルの中で、強者による殺戮と略奪だけが正義だ、と考えるのは愚かな強者の抱く妄想です。 

 

アメリカが第2次世界大戦後に築いた国際秩序と、冷戦終結後に実現したグローバリゼーションの成果を、破壊するぞ、とアメリカ大統領が威嚇すれば、そのシステムに依拠する国々は人々の生活が失われることを恐れ、凶行を抑えるために譲歩するのは賢明です。同時に、今やアメリカ抜きの次のシステムを真剣に模索するときが来ました。 

 

貿易・決済システム、国際金融・投資システム、安全保障、気候変動対策がなければ、各国は、繰り返し、ドナルド・トランプの資源・不動産取引、アプレンティス型のSNS外交、アメリカ・ファーストを誇示する巨大ディールに利用されます。 

 

世界が1つの政治共同体になるとは、考えられません。しかし、帝国間の競争と技術的な条件で、グローバルな帝国が現れる危機と戦争の時代を、多くの人は好まないでしょう。 

 

労働力、資本、気候変動、これらを結びつける国際通貨システムが議論されています。 

 

核兵器の廃絶、軍事紛争の監視、民間人の保護と介入を行うための地域協定、戦争犯罪を裁く国際法について、いくつも論説が現れています。 

 

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ドイツや中国が貿易黒字(経常黒字)を維持したことを、マイケル・ペティスは批判してきました。それはトランプ政権の「マール・ア・ラーゴ合意」にも関係しています。 

 

ペティスは、長期の黒字国が国内需要の不足を外国の需要を奪うことで国内の雇用を維持している、と批判しました。対外黒字は、本来、国内の労働者たちが消費を増やすことで需要と雇用水準を維持できたはずです。 

 

他方、巨大な赤字国であるアメリカは国内需要の不足(そしてドル高)を、財政赤字や金融緩和、債務の膨張によって解決することを好んだ、と指摘します。それは国際的な金融システム、債務の膨張を、自分たちの利益とする金融ビジネスの利益に従ったからです。他方で、企業はますます生産拠点を海外に移転し、労働者の賃金停滞や債務膨張は、繰り返される金融危機のとき以外は無視されました。 

 

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The Economistには、2025年のジョン・ベイツ・クラーク賞を授与された Stefanie Stantcheva による招待記事があります。 

 

「特に長期的には、ウィンウィンの結果を生み出す可能性が高い政策がいくつかあります。充実した公教育、医療へのアクセス、貧困層への支援といった機会拡大政策、経済全体のパイを拡大するためのイノベーションへの投資、そしてゼロサム思考を助長する希少性を軽減するための気候変動緩和、環境保護、天然資源保全のための政策などがこれに含まれます。こうした政策は、よりプラスサムな経済環境の創出に貢献し、ある集団の進歩が必ずしも他の集団の犠牲を伴うものではないと人々が信じやすくなるでしょう。」