市場は国境を越えて効率性を高め、私的な利潤に転換する。しかし、グローバリゼーションに対する不満や絶望から、人びとは異なる秩序を求めています。トランプもバイデンも、スナクもスターマーも意識しているでしょう。

 

・・・我々の時代を含む何世紀にもわたる歴史は、政治のデフォルト状態が再分配や一般福祉ではなく、非常に裕福な人々による蓄積のスパイラル、労働の極度の搾取、共有資源の奪取とレントの徴収、強要、強制、暴力であることを示している。正常とは、力こそが正義である社会である。正常とは寡頭政治である。

(George Monbiot, Things are not going to get better as long as oligarchs rule the roost in our democracies, The Guardian, Thu 27 Jun 2024)

 

その共犯者も、異なる秩序に向けた取り組みを呼びかける者も、エコノミストとよばれます。

 

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The Economistは記事(Bagehot: The great divide)で、1996年、当時の野党党首トニー・ブレアが日本を訪問したときの「政府の任務は、英国国民がグローバル化の時代に競争できるよう備えることだ」という主張を取り上げます。

 

・・・保護主義は無益であり、「創造的な時代」は、オープンで、フレキシブルで、スマートな人々のものである、とサー・トニーは言った。つまり、外資とインターネットを受け入れるということだ。労働組合は、マーガレット・サッチャーの労働法の破棄は忘れたほうがいい。学校と大学が最優先事項だった。10年後、サー・トニーは一時停止を望む人々をあざ笑った。「夏の後に秋が来るべきか議論するようなものだ。」 ばかばかしい!

 

グローバリゼーションをどのように評価するべきか?

 

・・・「柔軟性を重視して安全性を犠牲にしたり、開放性を崇拝して回復力を犠牲にしたりしてはならない」と、労働党の影の財務大臣レイチェル・リーブス氏は最近書いた。

 

なぜ労働党は変わったのか? それは、世界が変わったから。「1997年当時、英国の経済規模は中国とインドを合わせた規模よりも大きかった。」 また、知的風土も変わった。「ニュー・レイバー党はビル・クリントンの民主党からインスピレーションを得たが、現在はジョー・バイデンの産業戦略に注目している。」

 

こうしたグローバリゼーションの過剰な修正は間違いだ、とThe Economistは警告します。特に、小国にとって、そのコストは生活水準の悪化、経済停滞である。

 

・・・グローバリゼーションの残酷な風が英国の現在の経済不況の原因であるという考えは混乱している。英国人は以前よりも仕事、産業、地域間を移動することが減っている。停滞は混乱よりもはるかに大きな問題である。

 

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進歩派・左派系のエコノミストたちが提示したThe Berlin Summit Declaration「ベルリン・サミット宣言」は、全く異なります。

 

・・・自由民主主義国家は今日、国民の大多数に奉仕し、私たちの未来を脅かすさまざまな危機を解決する能力に対する国民の不信の波に直面しています。これは、気候変動から耐え難い不平等、大規模な世界的紛争に至るまでの実際のリスクに対処することなく、怒りを利用する危険なポピュリスト政策の世界に私たちを導く恐れがあります。人類と地球への大きな損害を回避するには、人々の憤りの根本原因を早急に解決する必要があります。

 

・・・何十年にもわたるグローバル化の不適切な管理、市場の自己規制に対する過信、緊縮財政により、こうした危機に効果的に対応する政府の能力は空洞化している。

 

これと同じ呼びかけを、私はコロナ下で読みました。

 

“Humans are not resources. Coronavirus shows why we must democratise work” 「人間は資源ではない。コロナウイルスは労働を民主化しなければならない理由を示している」Nancy Fraser, Susan Neiman , Chantal Mouffe, Saskia Sassen, Jan-Werner Müller, Dani Rodrik, Thomas Piketty, Gabriel Zucman, Ha-Joon Chang, and many others, The Guardian, Fri 15 May 2020

 

拙著の「あとがき」や、コロナウイルス・ショックの下で追加した考察も参照してほしいです。

労働者の支持するグローバリゼーションと自律の時代に向けて (下) パンデミック×ポピュリスト×政治経済学」

 

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どちらの主張に同意しますか? グローバリゼーションの下で、革新的な知識が普及し、境界を越えて投資や人口移動が起きたことは、戦争や革命、社会の近代化を促したでしょう。それを受け入れるしかなかった、とは思いませんが、避けることも、逆転することも、答えになりません。

 

輸入に対する障壁、自国産業や地域への補助金、愛国心の高揚(強制や排除)は、新しい秩序に向かう指針となるより、ポピュリストの育つ衰退した社会風土の鎮痛剤です。

 

さまざまな「人間化」、「民主化」の宣言を、私は支持します。技術革新や富を「社会化」する試みは、まだ具体的な政治経済モデルを示せないとしても、若者たちの挑戦に公平な機会を与え、社会的弱者のためにも文明の成果と社会正義をもたらす、次世代の秩序の基本です。