家族が、企業が、国家が分断され、相互の信頼や友愛の感覚が失われていくとき、私たちの多くは不幸になります。どうすればよいのか?

 

ポール・コリアーは書いています。(『新・資本主義論:「見捨てない社会」を取り戻すために』)

 

・・・私たちは悲劇の真っただ中にいる。私の世代は資本主義の輝かしい成果を経験したが、その資本主義はコミュニタリアニズムによる社会民主主義としっかり結びついていた。ところが新興の先導者たちは社会民主主義を乗っ取り、自分たち流の倫理と自分たちの優先事項を持ち込んだ。

・・・成功した社会では、人びとは経済的な繁栄に帰属意識と威信とを合わせた豊かさを享受する。・・・その対極にあるのは、貧しさだけではなく、孤独と恥辱が加わる。

 

コリアーは、アダム・スミスにさかのぼって、「経済人」ではなく「ソーシャル・マン」の心理を強調します。私たちは、人生で最も後悔したこととして、さまざまな経済的失敗ではなく、なすべきことを果たせなかった、仲間への義務感や公正さの規範を裏切ったことを挙げる、といいます。

 

相互に助け合う、活発な政治社会では、激しい構造変化が生じるグローバル化した経済条件においても、積極的な投資を行い、人びとは再配置、再訓練に自ら参加するでしょう。

 

フィンランド、デンマーク、アイスランドが、世界の幸福度指数で上位にあります。格差の小さい、増税しても仲間を助ける「小国」が、成長を実現し、幸福であることは、アイデンティティを共有しているからだ、とコリア―は考えます。

 

かつてはブータンが上位にありました。しかし、SNSの普及が一因となって急落したようです。今、「もっと豊かな」外国の都市生活、衣装、食事に比べて、自分たちを「貧しい」「不幸だ」と思うのです。

 

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マーチン・ウルフも、改革を通じて、「民主主義」と「リベラルな資本主義」とを結びつけた社会の救済を求めます。

 

・・・共和党の南部戦略がルーズベルト連合を破壊した。黒人の市民権を支持していた白人に、共和党は、黒人が白人の地位を奪う、と人種対立の問題にしたからだ。

・・・金融ビジネスやグローバリゼーションで利益を上げる中枢都市のブラーマン・エリートは、労働者たちや地方の困窮を無視し、自分たちの裕福な生活や地位を誇示した。

・・・圧倒的に多数の有権者に対して、政治資金を握る富裕層は、有権者の分断と内部対立を煽ることで権力を保持し続けた。

 

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「「ひっそり死にたい」と願った男性 「ゆうパック」で届けられた遺骨」(土肥修一、朝日新聞デジタル、2024年3月7日)

 

介護のための施設や費用、公的補助が、孤独死、認知症、安楽死などとともに、議論されます。優秀な頭脳や若者の労働力から、ますます多くを、高齢者のための医療や介護に充てる社会は成長を抑圧されるでしょう。

 

老人からの票を集めて権力を握り、成長を名目に、政権はグローバルな富裕層に有利な制度を築きます。労働者のきびしい生活には関心を示さず、新興企業家や国際金融ビジネスのための投資環境を整備する。それで社会がよくなるのでしょうか?

 

子育てや高齢者の介護をだれが、どのように負担するべきか? イギリス独立党(UKIP)が保守党の支持基盤を掘り崩したように、老人たちの声を政治に反映させる「老人社会正義党」が必要です。

 

高田郁の「月の舟を漕ぐ」『みをつくし料理帖 特別巻』を読みました。