地平線の向こうから暗雲のように広がる社会の変貌が、はっきりと見えます。民主主義の衰退。グローバリゼーションの逆転。

 

ユーロ危機、難民危機を経て、ヨーロッパはさらに厳しい局面に入るのでしょうか? プーチンによる戦争と政治介入。習近平体制による高度な工業製品、特に、EVの輸出急増。そして、ドナルド・トランプが再び大統領になれば、NATOを失い、グローバルな貿易・通貨戦争が頻発する。

 

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社会が構造を変えるには大きな困難がともないます。

 

主要な産業を失った地域社会が、技術や国際競争、市場価格の変化に応じて、静かに消滅していくか、と言えば、そうではない。そうあるべきだ、早くそうしなさい、ということが必ず正しいわけでもない。なぜなら、自分たちの仕事や町、仲間に対する愛着や誇りが、市場の評価とは別に、とても大切だからです。

 

政治にとって一つの難問は、都市中枢と農村、安定性と革新のバランスを取ることです。工業力の地理的な移転、移住者・移民・難民を、賛成か反対ではなく、どのように、どこまで許容できるか。しかし、政治を動かすのは、都市で学んだ知識階級であり、金融ビジネスやインターネットを介する巨大企業です。彼らは、地方から富を吸い上げる高度な社会エンジニアであり、不在地主のような、世界都市富裕層としてアイデアを共有します。

 

経済成長や富の蓄積は、人びとの満足や幸福な日々を実現する能力の指標、あるいは、素材であって、それ自体が優れているわけでも、正義や良心に照らして支持されるわけでもありません。しかし、成長は財政規模、雇用創出として、富は企業、経営者、資産家の社会的評価として、支配的な意味を主張します。

 

それは変わると思います。

 

マーティン・ウルフのThe Crisis of Democratic Capitalismは、資本主義と民主主義のバランスを取る政治経済モデルが、「不労所得経済」と「ポピュリズム」によって根本的な変貌を遂げてきたことを強調します。

 

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かつてケインズ主義的な福祉国家(KWS)とブレトンウッズ体制が守っていた社会秩序の安定感を人びとが失ったのは1970年代でした。冷戦に勝利したときの、境界を越えて人と文化が交流し、平和を実現できるという希望も実現しませんでした。

 

バイデンは、トランプの政策(移民排斥、人種差別、女性蔑視、保護関税)や政治スタイル(ポピュリズム、独裁)を非難することで、選挙に勝つことはできないでしょう。エリートへの憎悪を煽ることが、重要な選挙で既存の支持基盤を割ったからです。

 

もはや左右の政治対立、冷戦、工業力(軍事力)を競い合う時代ではありません。知識とアイデンティティによって細分化し、次々と変態する、諸「部族」が政治経済モデルを支配します。

 

気候変動、高齢化・少子化、AI革命。それらに対する統治能力と、人びとの政治的意思決定をめぐる構造変化が求められています。旧産業や衰退地区の人びとはどうするべきか。防衛産業の再建、気候変動対策への投資、AI開発競争のバブルと社会的制御。

 

安全保障の合意を重ね、国際収支不均衡と国内雇用の国際協調を模索し、不平等な市場システムと権力の私物化に対する不満を、何よりも真剣に受け止めて、プーチン、習、トランプの支持者たちにも改革への参加を呼びかけます。