中国の台頭を恐れるより、中国の衰退を恐れるべきだ。
ときおり、そう警告する論説を読むときも、中国のイメージは台頭する(むしろ復活する)世界帝国であり、新しい国際秩序の先頭を歩むアジア強国でした。
しかし特集記事(The Economist January 23th 2020)を読んで、そうではないな、と思いました。これまでに読んださまざまな論説が、星雲状に集まる核があるとしたら、中国の若者たちを考察する特集記事がそうでした。”Jiulinghou”(post-90s)という、1990-1999年に生まれた若者たちのことです。
「90年代生まれ」の若者たちは、1億8800万人いる、ということです。当然、日本の人口と比べてしまうので、多いなあ、と思います。彼・彼女たちは、1989年の天安門事件以後に生まれています。「70年代生まれ」は、1976年の毛沢東の死後、子供時代を過ごしました。「80年代生まれ」は、鄧小平の下で、改革開放が進む時代に育ちました。しかし、「90年代生まれ」が生きたのは、習近平が権力の頂点に立った時代です。それ以前の中国を知りません。すなわち内戦や貧困、飢餓はもちろん、改革の時代も、独自の急成長も、直接、知らない世代です。
記事の冒頭に、毛沢東の肖像がかかる天安門広場で、毎朝、日の出とともに行われる国旗掲揚のセレモニーを、多くの人々が見つめる情景があります。肌を刺す厳しい北京の冬でも、セレモニーに参加する市民の列は絶えない、と。
なぜ中国共産党が支持されるのか? その答えは世代によって異なるようです。帝国主義的支配、特に、日本の侵略を打ち負かした。朝鮮戦争を含む、大戦争の勝利という記憶。毛沢東という指導者のカリスマと秩序の混乱を恐れる。文化大革命、権威、文化、支配エリートの剥奪。毛沢東の死後、権力闘争に鄧小平が勝ったのは何が理由であったのか。国民生活の疲弊や、カンボジア内戦とベトナムとの戦争・・・?
90年代に生まれた若者たちは、共産党の権威に逆らったりしない。中国が豊かになったこと、国際的な地位が高まっていくことを誇りに思っている。権威主義的な国家や共産党の支配を肯定的に観ている。マルクス主義、ナショナリズム、西側の基本的諸価値を否定するイデオロギーを、愛国主義に求める。そして、子供のときから、学校では「習近平思想」を学習する。
しかし、中国の高成長(その条件)は、パンデミック前にも消滅していたが、いよいよ、それが明白になった。若者として、猛烈に働いて、より高い地位や所得を求めるより、「生きがい」を求めるようになった。大学を出て、都市の大企業に就職するとか、ハイテク分野で起業するとか、そういった夢は、嘘ではないが、非常に限られた成功例でしかない。それがわかったら、都会生活の極端な競争、環境破壊、所得や地位の格差、不平等に、もっと異なる生き方を模索し始める。そんな若者が増えているという。
一人っ子政策は子供を甘やかした。しかし、その弊害で男子の人口は女子より多く、4000万人も結婚できない。都市より田舎暮らしを理想化し、環境保護、気候変動対策を支持する。さらにフェミニズム、ゲイ、LGBTの権利を訴え、農村の貧困や都市下層の不当な扱いを憤る、そんな若者たちが中国の政治を変え、次の国際秩序に最も重要な発言力を得るだろう。
共産党はそれを十分に意識している。
ドナルド・トランプの暴言とアメリカ政府が示した中国への攻撃、侮辱、アメリカ国民に広まったアジア人への差別は、中国の若者たちに、アメリカや西側のリベラルな価値も民主主義も、偽善である、と教えた。コロナウイルス対策の競争で、欧米は敗北し、アジアが、特に中国が勝利した。そういう政府の宣伝は、国際秩序の将来にも影響するだろう。
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奈良の平城宮跡を散歩しました。だだっ広いだけだと思っていたら、とても中身のある展示と解説に感銘を受けました。奈良時代の生活水準や身分の違い、食生活まで、やたらに勉強になります。・・・そうか、貴族は蛸の干物まで食べていたのか。
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中国の若者たちだけでなく、激しい競争によりグローバルな産業構造の変化が絶え間なく進んでいる。しかも半導体生産の2つの巨大企業は、台湾と韓国、2つの地政学的危険地帯から発したTSMCとサムソンだ。
地政学を呑み込みながら、それでもグローバルな産業の再編、工業化とハイテク化の波は続きます。中国の台頭はもちろん重要ですが、中国やアジアを含めて、世界経済は、半導体、電気自動車、鉄鋼業、再生可能エネルギー、農業・食糧生産、ワクチンなど医薬品生産・・・そして、情報経済とプラットフォーマー規制をめぐり、数年ごとに、すっかり変貌するでしょう。
日本が停滞しているとしたら、老人ばかりが密室で協議するからです。若者たちは中国の「90年代生まれ」に共感し、新興産業は激変する世界の一部を生きているはずです。