幻想や偏執を含まない政治はない。しかし、それは無辜の民を犠牲にする。政策の中身よりブランドやスローガンを連呼し、敵を作って粉砕する。

政治は妥協のアートである。突発的な危機やショックに対して、政治のプロは紛争を回避し、妥協を促す。平和が持続するための条件を創り出すように、人々の利害を調整し、制度を築く。

 

優れた政治家には、ビジョンがあり、信念がある。現実を理解し、妥協を促す才覚がある。

 

FT December 8, 2017

The Brexit monomania built on blind faith

TIM HARFORD

 

イギリスの政界におけるエスタブリシュメントがクリスマス休暇に読む本としては、William Goldingの『尖塔』The Spireがおすすめだ。

 

400フィートの尖塔を建てることに執着した男Dean Jocelinを描く小説だ。彼は、高い尖塔を建てようとするが、それは土地の状態や嵐の恐れから断念すべきだ、と説得されてもあきらめなかった。彼の野心の強さが他の義務を放棄させ、教会やそのコミュニティーの脅威となっていた。彼には何も見えなかった。

 

イギリスがBrexitについて抱いた熱狂的展望は、Jocelinに従う者たちが彼の意志に見たものだ。昨年の夏、Brexit担当大臣となったDavid Davisは予言した。イギリスは2年以内に「EUよりはるかに大きな」自由貿易圏の交渉ができるだろう、と。17か月が経った。Davisがその当時見たものは、何であれ、現実ではなかった。

 

証拠を示しても、Jocelinはそれを認めない。彼は専門家たちの声を無視した。「私は助言を退け、信念において尖塔を建てる。それしかない。」

 

もちろん、純粋な決意が何らかの方法を見出して実現することもある。偏執によって世界は変わった。ときには良い方へ。スティーブ・ジョブズがAppleを始めたころのように。Brexitが最終的に称賛されるものであるかどうか、それは将来の歴史家が決めることだ。

 

Jocelinの野心は、尖塔を建設する労働者の軍団を必要とした。軍団は無辜の人々を殺戮する。天に向けてJocelinは告げた。「どうぞあなたの思うままに、犠牲を支払います。」

 

結末で、Jocelinはその地位も尊厳も失う。ついに嵐が来たのだ。現実がそれを確認した。強い圧力を受けて、ビジョンが、夢に執着する者が、尖塔が砕けた。「私は偉大な仕事をしていると思っていた。」と彼は告白する。「しかし私のしたことは破滅をもたらし、憎悪を広めただけだった。」

 

Brexitは、まだ、砕けていない。