現代フランスを駆け抜けたMABを代表する自動拳銃、MAB Model D | ジャック天野のガンダイジェスト

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スモールアームズ(小火器)に関するエッセイです。同じアメブロで書いていたブログを継続して、不定期で更新して行きます。

フランスには多くの小火器メーカーがありましたが、その中でもMAS(サン・テティエンヌ造兵廠)と並び立つ存在だったのがMAB(Manufacture d'Armes de Bayonne、バヨンヌ造兵廠、Manufacture d'Armes Automatique de Bayonneとも呼ばれます)でした。バヨンヌは古来から武器の製造で有名な都市で、銃剣を意味するバヨネットの語源となっているくらいです。この地に1920年に創立された同社は25口径、32口径、380口径の自動拳銃を順次発売し、好評を得ました。とくに1933年に発売したMAB Model Dは刑事用拳銃として、フランス各地の警察で使用されました。FNのM1910の影響を受けたシングルアクション、シンプルブローバックの自動拳銃で、.32ACP弾を8発装填することができました。外観もFN M1910に似て優美なフォルムをしています。1940年にはナチスドイツ軍に占領されてしまいますが、フランス解放後はふたたびModel Dの製造を再開し、1940年代から1950年代にはフランスの私服警官の標準装備品となったのです。そして、MABがフランス軍の制式拳銃を目指して開発したのがMAB PA-15(バックナンバー)でした。1966年に発売されたPA-15は残念ながらフランス軍には採用されず、MABは経営不振に陥りました。そして、1970年代にはFNハースタルの下請け工場となったのですが、結局は1983年に倒産してしまいました。操業から63年という歴史を駆け抜けた自動拳銃メーカー、それがMABでした。

MAB Model Dはフランスの映画にはよく登場し、ジャン・ギャバンなどが使うシーンが多く見られます。時代考証が正確なのは、アラン・ドロン主演の「フリック・ストーリー」("Flic Story"、1975年)で、刑事たちはいずれもMAB Model Dを使います。また、イブ・モンタン主演の「真夜中の刑事」("Police Python 357”、1976年)でも、同僚刑事がMAB Model Dを使うシーンが出てきます。なお、イブ・モンタンは原題のようにコルト・パイソン357マグナムを使います。これはダーティー・ハリーのS&W M29 44マグナムの向こうを張ったものでした。