防衛省はなぜ新制式拳銃にHK SFP9を選定したのか? | ジャック天野のガンダイジェスト

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スモールアームズ(小火器)に関するエッセイです。同じアメブロで書いていたブログを継続して、不定期で更新して行きます。

 防衛省は自衛隊の次期制式拳銃にドイツのHeckler & KochのHK SFP9を選定しましたね。この自動拳銃はH&KからVP9という名称で発売されていますが、最近ではドイツ本国でもSFP9の名称で呼んでいます。自衛隊の現用制式拳銃はSIG SauerのSIG P220であるため、次期制式拳銃もSIG製のSIG P320が選定されるという噂になっていました。アメリカ軍はすでにSIG P320をM17として制式採用していますし、日本の防衛省もSIG P320を選定するのではないかと思われていたのは当然ですね。しかし、トライアルにはGlock 17とBeretta APX、そしてHK SFP9の3機種が提出されていて、もともとP320は対象になっていなかった、というのが真相のようです。なぜP320を対象にしなかったのか、そもそも国産拳銃はあり得なかったのか?という疑問も自然ですね。同時に制式採用された自動小銃(アサルトライフル)のほうは日本の豊和工業製で、20式小銃と呼ばれているからです。しかし、拳銃のほうは国産できない事情があるので、海外製に頼らざるを得ないのです。かつて日本には新中央工業という拳銃メーカーがあり、制服警察官用のニューナンブM60を警察庁に納入していて、またニューナンブM57という自動拳銃も作っていました(ニューナンブという名称は前身が南部銃器であり、かつては南部式自動拳銃を作っていたからです)。新中央工業は現在ミネベアに吸収合併されて、制服警官用のS&W M360J SAKURAの改造(ランヤード金具の追加)を行っていますが、自衛隊の要求に応えることのできるような自動拳銃は製造できないのです。ニューナンブM57は防衛庁(当時)の要求に応えることができず、結局はSIG P220に決まったという経緯があるのです。ではなぜSIG P320は候補からも外されていたのでしょうか?ここからは想像になりますが、H&Kは防塵防滴の技術をSIG Sauerよりも持っているからということです(同社の製品には水中ピストルのHK P11もあるぐらいです)。防衛省が採用したHK SFP9はM(Maritime)と呼ばれる耐水性の優れたモデルだと伝えられています。

 なお、HK SFP9は9mmパラベラム弾(9X19mm)を使うティルトバレルショートリコイル方式の自動拳銃で、フレームなどはポリマーになっています。マガジンには15発が装填できますが、延長マガジンを使用すれば17発、20発装填も可能です。撃発方式はストライカー方式で、名称のSFPはStriker-Fired Pistolの略です。