西ドイツ警察の制式拳銃トライアルに提出された幻のマウザーHsP | ジャック天野のガンダイジェスト

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スモールアームズ(小火器)に関するエッセイです。同じアメブロで書いていたブログを継続して、不定期で更新して行きます。

西ドイツ(当時)の警察庁は1976年に制式拳銃を決めるトライアルを行いました。そこで提出されたのは、ワルサーP5、SIG Sauer P225(P6)、H&K PSP(P7)、そしてマウザーHsPでした。HsPとはHahn selbstlade Pistole、つまりハンマー(露出)式自動装填拳銃ということで、ハンマー(撃鉄)が外部に露出した拳銃でした。口径は9mmパラベラム(9mm×19)で、弾倉の装弾数は8発、ショートリコイル式で、ロータリーバレルロック方式でした。トリガーはダブルアクションで、ハンマーを起こすことでシングルアクションにも使えました。これは戦後、オベルンドルフ・アム・ネッカーに再建されたマウザー社がそれまでのHScよりも強力な拳銃として、9mmパラベラムのHsPを設計し、この警察トライアルに提出したのでした。

いろいろな点でワルサーP5と互角のマウザーHsPでしたが、残念ながら制式採用にはならず、試作に終わってしまいました。競争相手のワルサーP5は高価ながらもある程度、西ドイツの警察で使われました。また、SIG Sauer P225はP6として、H&KはP7として、多くの西ドイツ警察が使うようになったのです。


なぜ、採用されなかったのか、その理由はさだかではありませんが、当時のワルサー社やH&K社が力を持っていて、いっぽうマウザーは再建されたものの、ルガーP08のリバイバル製品を作っている程度で、実績がありませんでした。それが影響したのかも知れませんし、ほかの理由があったのかも知れませんが、以降マウザー社は拳銃を作ることなく、軍用ライフルや機関銃のメーカーとして、最終的にはラインメタル社に買収されてしまうのです。戦前、そして戦中にはマウザーC96やM712、HSc、アサルトライフル、機関銃、そして航空機関砲で有名だったマウザーですが、戦後はとくに新興勢力のH&Kに負けてしまったのでした。

試作で終わったせいで、映画などにも登場することはありません。しかし、コレクターにとってみれば、もっともレアなピストルであり、作動しなくても、非常に高価な価格で取引きがされているようです。


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