ダービーが終わって気が抜けたのは久しぶり。
だいたい毎日どっか競馬やってて、来週は安田記念。来年のダービーに向けてなんて言ってる暇はないのであるが、今年はちょっと死闘が見応えありすぎた。
息抜きモード。
…といきたい所だが、金曜の大井のメイン[優駿スプリントトライアル]とかいう耳慣れないオープン戦にチャンピオンヤマトが出ていた。
中央から、高橋三郎厩舎に移って来て初戦、しかも鞍上戸崎でぐりぐりの本命。
しらさぎ賞の時にちょこっと書いたが、こいつあのアクアライデンの子なのだ。
ホクトベガにぶっちぎられること32馬身…
でばかり語られがちな馬だが、実際はダイオライト記念も勝った立派な南関東の名牝。
ちなみにダイオライト記念は翌年から交流になり、その年の覇者はホクトベガ、よくよくこの2匹、縁があるらしい。
ちなみに勝ち時計を比べると、やはり32馬身分くらい違っているのはやむを得ない。
今や南関東の華形ジョッキーから名伯楽に華麗な転身を遂げたサブちゃん厩舎の期待馬と見えるだけに、こいつは期待してしまう。
大井行っちゃおうかな♪
と密かに仕事場からの脱出を企ててみたが…
何しろ、私情が入りすぎるのか、○×牧場の生産馬との馬券相性は最悪の極みで、確か今まで的中したのは雪でダート1800に変更になった中山900万でジンライの単勝を取った、その一回だけだ。
それと、シュンレイカの子供な記憶があるから=アクアライデンの弟だと思うけど…
バイオレックスという馬が中山の新馬で予後不良になった現場で単勝握っていた時は、もう地べたに座り込んで立ち直れなくなった。
アクアライデンは○×牧場とは違う所に繋養されていたはずだけど…
やっぱり自分がかかわった系統の馬だけに、無事に走って、活躍してほしいと願わずにはいられない。
そんな訳で、見事に楽勝したチャンピオンヤマトを、買わずにそっと応援していたのであった。
○×牧場に行ったいきさつは、[牧場で働いてみたい]と思って、不躾にも手紙を送って頼み込んだことに始まる。
一回目は断られ…
懲りずにまた送ったら、返事を頂いた。
[いつでもいらっしゃい]
北海道勇払郡早来町。
今は合併して安平町になってしまったが…
[はやきた]という響きには、やはり格別な思いが詰まっている。
周りの連中には[1泊2日牧場体験ツアー]などと馬鹿にされつつ、ベロ出しながら怖いもの知らずの勢いだけで-20℃の世界に突撃した真冬の日。
しかし、今思うと、糞の役にも立たない素人に飯食わせて、給料まで頂いて、馬にとってプラスなことも何ひとつないはず。
にも関わらず、胆振では社台より早くから先進的な馬産に取り組んできた社長は、こんな奴まで度量広く受け入れ、貴重な体験をさせてくださった。
本当にお礼の言葉もない。
自分が世話になったのは繁殖厩舎。
糞の役にも立たないが、毎日馬糞拾いから仕事は始まる。
馬はそれぞれに馬房のどこに用を足すかを自分で決めているので、寝藁の濡れている場所を掘り返すと、出るわ出るわ、重たくなった寝藁でモッコの一輪車がみるみる満杯になる。
自分はその時、競馬の±6㎏くらい気にしても仕方ないのだということを身をもって体感した。
どいつもこいつも、パドックで6㎏くらい塊で落っことして行くんだから。
最初は相当恐る恐る触れていたが、ブラシ掛けしたり、バケツに水を張ったりしているうちに、自然に馬に話しかけるようになる。
ただし、会話が本当に通じているかどうかに関しては、保証の限りではない。
ブラシ掛けが大嫌いな4歳馬は、話しかけ、なだめすかしつつして、どうにかおとなしくブラシ掛けさせていたくせに、終わって、そろ~っと馬房を出ようとした自分の肩に、ガブッと噛み付いた。
たぶん加減してるんだとは思うけど、それでも寮に帰ってみたら、着ていたTシャツが穴だらけになっていた。
言うまでもなく、馬は草食動物である。
アクアライデンの母親のシュンレイカは、赤毛に近いような鮮やかな栗毛の馬で、人にはとても従順だけど、馬同士では放牧地のボス級の存在だった。
母親のシュンシゲと仲が良くて、子供の方は一回親離れすると忘れてしまうらしいが…
[シュンシゲは親子だって、わかってるみたいだね]
元々母親のシュンシゲが強いから、シュンレイカも自然にそうなったらしい。
シュンシゲは牝馬東タイ杯(今の府中牝馬S)2着、れっきとしたオープン馬。シュンレイカ⇒アクアライデン⇒チャンピオンヤマト。血統も一本筋が通っている。
自分と一番仲良しだったツンデレ娘のホリリボン⇒こいつの息子が中央から笠松に移籍後にアンカツさんとのコンビで大暴れしたアメージングレイス。
婆ちゃんになって、他の馬とは別に、厩舎のそばで馬服来てひなたぼっこしながらも、矍鑠とした風格を漂わせていたオキワカ⇒
日経新春杯で故障したあの名馬の姉ちゃん。
子供にはダービー2着馬と、朝日CC繰り上がり1着⇒種牡馬入り後に地方リーディングサイアーになってしまった馬がいる。
ネタ的にはシンボリクリスエスが人気で負けた平場の500万で2着に来たテンジンオーカンが、このオキワカの孫である。
あの馬によく似た栗毛の流星イチワカは全妹。
ダイイチルビーが勝ったスプリンターズSで5着に来た牝馬の母で、娘のサチワカが産んだ巨漢馬は香港国際カップを勝つ快挙を成し遂げた。
牧場の奥の静かな林に眠る悲運の名馬と名障害馬の兄弟の血は、この2頭の姉妹を通して受け継がれている。
もう一頭の大物、柴田政人で府中の3200を逃げ切った天皇賞馬は、この年種付けしなかったので、休養馬の繁殖厩舎にいた。
この年、その息子が、角田晃一を背に母を彷彿とさせる大逃げを打って菊花賞を沸かせることになる。
うぅ~
書いてるだけで、奴らに会いたくて眼がうるうるしてくる(>_<)
早来は素敵な街だ。
スーパーもセブンもローソンもセイコーマートもちゃんとある。
北海道というのは、それが当たり前の土地ばかりとは限らない。
しかし歩いていくとしたら相当な気合いが必要な距離なので、車は必須である。
生産馬の勝ち祝いに行った焼肉屋。店は汚いが、肉は美味い。
夜には誰かが呼びに来て、早来の娯楽の殿堂[スズランボウル]でボーリングまで出来るのだから、言うことはない。
デカイ雪だるまのオブジェが屋根に乗っている[早来郵便局]は、いつのまにか[早来雪だるま郵便局]に名前ごと変わってしまった。
プレシャス♪
普通にキタキツネが散歩しているような場所にもかかわさず、千歳の街や空港も、車で15分もあれば着いてしまう。
都市と隔絶された風景に暮らしながら、とてつもない地の利のギャップを実感できる。
成田発着便なら、牧場からここまで2時間かからん…すごいな。
空港で売ってるシフォンケーキと、千歳の[森もと]のアップルメは激うまい。
そんな訳で、早来にいて困ることは何もない。
穴があったら出たいような失敗も山ほどやったし、朝は腱鞘炎で手が痺れて眼が覚めるくらいだけど…
馬と過ごす日々に、退屈したことは一度もなかった。
休日も必要ない、と思うくらいで、早来から出なくても特に困らなかった。
少なくとも、自分は。
胆振名物⇒[朝だけ天気]
恵庭岳から吹く風が気候に微妙に影響するらしく、朝どんなに快晴でも、いつ空が曇って降り始めるかわからない。
降って、そのうち何事もなく止んで、夕暮れの日差しが降り注ぐ。
そんな気候の移ろう様が、早来が飽きない理由の一つでもある気がする。
同じ胆振に社台グループがあって、千歳に降りた馬主さんは日高に向かう前に社台に寄ったら用事が足りてしまう、みたいな笑えない話もあるけど…
確かに社台やノーザンに訪れる人は、一瞬で空港から来れてしまう。
これは大きい。
旅人として、自分も日高をふらふら巡った。
びっくりするようなこともいろいろあって、思い出としては楽しいけど…
なぜか、ずっと日高にいると、だんだん気が滅入ってくるのだ。
襟裳を抜けて十勝に出ると、また広大な風景が晴れ晴れと開けてくる。
十勝の風は、また胆振や石狩とも違う心地よさが吹き抜ける。
しかし、山と海に挟まれた日高には、何とも言いようのない曇り空のような閉塞感が垂れ込めている。
日高が嫌いなわけではない…完全に理屈では言えない感覚なのだ。
気分が塞いだ時は、一気に日高を脱出して、胆振に戻る。
苫小牧の勇払あたりまで来ると、なぜか、いつもホッとする。
そして、北上して隣の早来まで来ると、やっぱりここはいいなと思う。
単に日高が遠いだけではなく…
馬を買いに来る馬主さんにも、そういうことを感じる人がいるんじゃないだろうか?
日高の人は怒るだろうが…
馬産地の現況が、この日高独特の空気の閉塞感に由来していないとは限らない気がする。
他所の人間だからこそ、日高という土地に感じてしまう感覚。
何だか気が滅入るなぁと思ってはいても、そこに住む日高の生産者の人達に向かって口に出す非礼な馬主さんはいないだろう。
ディープブリランテも、ゴールドシップも日高で生産した馬。
だが、ディープブリランテはセレクトセールに出たからこそ、サンデーレーシングが購入してダービー馬になったのも事実。
日高が、再び社台に互する存在感を示して、健全な馬産の状態にするなら、セリ会場などの馬を売る場所にもっと客を引き付ける魅力があって然り。
日高のセリにはそれがない、という話も聞くが…
日高にあるものといえば、静内のウェリントンホテルと、後は………。
馬を購買しに来て、自分みたいに、道の駅新冠レコード館とか、静内でモスバーガーを発見して喜んでるような人は誰もいないだろ?
(って、そんなこと書いてるとまた日高を旅したくなって来るのが不思議だけど…)
だったら、日高で作った馬を、別に日高で売らなくてもいいはずで。
日高まで足を運ばなくても、北海道で生産された馬は、千歳空港周辺の便利な立地で、一括で取引されるようなセリのシステムがもっと有機的に機能しないもんかなと思う。
当歳、1歳、セレクション、お買い得、トレーニングと様々価格帯や条件のセールが、産地を問わずに上場され、便利な場所で開催されれば、客は集まる。
不況でも、金持ってる人は持ってるのだ。
千歳周辺でなくても、せめて日高の入口の門別競馬場周辺あたりが、馬の取引のメッカだったら全然違うんだろうなぁ。
同じような血統なら、社台グループの生産馬の方が2割くらい高いと聞く。
そして、走る、と。
しかし、社台やノーザンだって走る馬もいれば走らない馬もいる。
今年の皐月賞馬も、ダービー馬も、日高産馬だ。
エスポワールシチーもいるしね。
自分は他所者だから遠慮は不要で言う⇒
日高までわざわざ気が滅入りに行かずに済むなら、日高産馬の需要はもっと拡大する可能性を持っているはずだ。
社長が亡くなったことを、長い間知らずにいて、仏前にお参りもできず不義理をしてしまった。
いつか近いうちに、早来に帰らなきゃな、と遠い空を見上げながら思う。