[いつもの岩田くんじゃなかった。右に行ったり、左に行ったりして。声をかけたんだけど]
スポーツ紙に載っていた後藤騎手のコメント。
頚椎骨折の疑いがあるとかで、実はかなり重症なのかもしれない。
今週のアニメイトバイオも、ダービーのジャスタウェイも当然乗り代わりになるだろうな。
う~ん…しかし。
このブログにも、しょっちゅう書いてはいたけど、なんか色々考えてたら、改めて岩田騎手のことを書きたくなった。
若手だった頃の岩田康誠は、小牧太とともに、田中道夫引退後の園田競馬に一時代を築いていた。
不動のリーディングジョッキー小牧太の牙城を、岩田はなかなか切り崩せなかった。
リーディングを狙えると思った矢先に騎乗停止になってみたり。
しかし、曽和厩舎の馬がいいから小牧が勝ってるけど、騎乗馬の質が劣るのにヒケを取らない岩田の方が上手いと言う人がいたのも事実だった。
関東にいると、現地での二人を騎乗を見る機会はほとんどないから比べようがなかったが、中央入りしてからの成績を比べると、自在味のある弾け方で一気に勝ち星を伸ばした岩田と対照的に、小牧は中央の水に慣れるのに時間がかかった印象がある。
ローズバド、アグネスワールド、ジャングルポケットなどの騎乗を代打で頼まれた園田時代の小牧は、安藤勝にも劣らない凄味があった。
それが中央入りした途端に薄れて、地味な騎手のポジションに収まってしまったような感じ。
そんな小牧が年間20勝を2回達成して中央に移籍し、園田でリーディング3位だった赤木高太郎までが、一次から受験して、中央入りを果たした。
残された岩田にとっても、中央入りは悲願の目標だったのだが、それ以前に先輩二人の抜けた園田では敵なしの存在になるのは間違いなかった。
しかし岩田は言う。
[小牧さんに高太郎さんまでいなくなって、自分だけ残されたんだから、プレッシャーは半端ないですよ、マジで自殺しようかと思いましたもん]
あの顔で…と言ったら申し訳ないが、冗談ではなく、これが当時の岩田の本当の本心だったんじゃないかと思う。
そんな岩田も20勝2回を達成して中央に移籍すると、いきなりの快進撃を始める。
園田所属の頃、すでに角居厩舎のデルタブルースで菊花賞を勝っていた。
ある意味、アンカツさん以上に派手に期待に応えた。
しかし、岩田という騎手には何か[超一流]というのが憚られる、ある種のアホっぽさが時々騎乗に出てくるのだ。
位置取り、コース取り…なんでそんな競馬すんねん?という厩舎の声がこれほど聞こえてくる一流騎手も珍しい。
しかし、岩田は勝つ。
特にGⅠでは神が降りて来たとしか思えないような鮮やかさと、無茶苦茶な追い方で勝ち切ってしまう。
人気薄でも勝ってしまう。
当然、大舞台での依頼は引きも切らず、有力馬が集まってくる。
そこでふと最近行われた東京スプリントやかきつばた記念を思い出してみる。
セイクリムズンに乗った岩田の騎乗は、何の無駄もなく、フォームにも全く崩れがない。
一連の牡馬クラシックトライアルでのド下手な騎乗はもちろん、勝ったGⅠ…例えば昨秋のアヴェンチュラでの無茶苦茶な追い方をしている岩田とも、まるで別人のように思える。
抜けた存在の馬に騎乗して、ある意味で乗り慣れた形態の地方の小回りダートでは、自信にあふれて乗っているのがわかる。
しかし、ウォッカ、ヴィクトワールピサ、ブエナビスタなど、桁違いの能力を持った名馬をいきなり頼まれて、結果を出さなくてはいけない立場に、毎回岩田は追い込まれていた。
園田を一人で背負う羽目になって、自殺したいとまで思い詰めた岩田にのしかかるプレッシャーは半端なものではなかったはずだ。
極限まで追い詰められるたびに岩田は、そこで毎回火事場の馬鹿力のような居直ったくそ度胸を発揮する。
フォームも糞もない追い方で、ギリギリに馬上のバランスが保たれているのか、それでも馬が伸びる。
とにかく何としても勝たせたる!
その気迫だけで勝ち切らせた競馬が山のようにあるように思える。
その瞬間、我々の眼には、神が降りて来たとしたか思えない光景が拡がる。
岩田が乗れば、結果を出す。
だから、厩舎の依頼は引きも切らない。
だが…
その状態が毎週続いたら、どうなるのだろうか?
天皇賞でも、もしオルフェーヴルが沈んだとしたら、頭に来なければいけない馬に乗っていた。
そうなるべき展開で、ビートブラックに独走を許して2着。
岩田が悪い訳ではなく、誰もが思ってもみなかったほど勝馬が強かった。
しかし、岩田には勝てなかった結果だけが残る。
手駒が揃いすぎてもなお欲張りな池江さんは、この馬もダービーに!と当然のごとく考えて、池添から岩田にスイッチする。
これは、馬主が異なる以上、どの馬主に対しても結果を示さなければいけないから仕方ないことだ。
まして、マウントシャスタは金子真人という大馬主の馬なのだ。
しかし、そういう時は誰もが忘れている…
前が壁になってアンカツさんが大外までぶん回してからやっと追い出したヒストリカルに、並ぶ間もなく交わされてしまう程度の馬だということを。
そして天皇賞を取りこぼした岩田に求められるのは結果だけだ。
何がなんでも2着には来て、ダービーに出さなくてはいけない。
陣営が無邪気に発した[ダービー出すぞ]宣言は、無言のプレッシャーとなって、岩田にのしかかっていたのだろうか。
オルフェーヴルの心を読めなくなってしまったように、池江厩舎の陣営は、岩田の心理を理解出来ていたのだろうか?
厩舎の技術の話ではない、調教師に騎手経験のあるかないか、そして酸いも甘いも噛み分けた本当の大御所との経験値の違いが、こういう思わぬ所に出てしまうことが、なしとは言えない気がする。
結局、神が降りる時の岩田と、単なるヘボ騎手になってしまう岩田は、紙一重でしかないのかもしれない。
思えば、トライアルなんて、勝つにこしたことはないけど、負けても構わないレースではある。
GⅠのように、プレッシャーを火事場の馬鹿力に変える必要のないレースなのだ。
毎週のGⅠ開催が、騎乗馬以外の部分で連鎖して、プレッシャーがモチベーションを構築できないほどに消耗してしまっていたとしたら…
今度のような、気ばかりが焦った騎乗になった意味もわかる気がする。
重傷の後藤も心配だが、事態をすべて自分のせいにするだろう岩田も気がかりになってしまう。
こんな時こそ、普段のアホキャラに切り替えて乗り切ってほしい。
ダートの条件戦なんかで、のびのび乗っている岩田は本当に鮮やかに決める。
叩き合いで負けたりする所もまたご愛嬌で、こういうのがこの騎手の本質なんだろうな。