葵さんの高校卒業が迫っていた。

 

この頃の俺は葵さんに恋心を抱きながらも、姉のように母親のように慕っていた。

 

そしてハルさんを、兄のように父親のように慕っていた。

 

葵さんは金銭的な理由で進学する能力があるにもかかわらず、就職を決めていた。

 

一方、ハルさんも仕事が軌道に乗り、忙しい日々を送っていた。

 

ハルさんや葵さんとの時間は自然と減っていった・・・

 

俺は寂しくなり、ハルさんや葵さんに会えないと、宗二さんや美香さんに会いに行った。

 

同級生と遊ぶことは少なかった。

 

それは、どうしてなのか未だに分からない。

 

同級生とは学校で共に過ごす程度だった。

 

友達がいなかったわけじゃない。

 

 

 

 

ただ、ハルさんと一緒に居ることが心地よかっただけのような気もする。

 

 

 

 

高校を卒業してからの葵さんは、どんどんキレイになっていった。

 

ハルさんと葵さんには勉強も、たくさん教わった。

 

葵さんは問題の解き方や、社会などでは時代背景なども教わった。

 

とても分かりやすかった。

 

ハルさんは、数学や化学が得意で、どうしてそうなるのか?理論から説明してくれた。

 

「物事の結果には必ず理由と根拠が存在する」

 

「人の心も同じだがな」

 

というのが口癖だった。

 

 

 

ただ遊ぶ時間は少なくなっていった・・・

 

中学三年になった俺は進路は決めていた。が・・・

 

ハルさんは高校に進学してもらいたいと思っていたようだ。

 

そして、ある一つの結論を示してくれた・・・

 

働きながら、通信制の高校・・・

 

俺は迷わず、その道を選ぶことにした。

 

 

 

 

生きる意味が分からなくなっていたハルさんに出会う前の俺。

 

でも、その頃は・・・苦しいのは自分だけじゃないって思うようになっていた。

 

生きる意味をハルさんが、言葉ではなく背中で示してくれたと思っている。

 

ハルさんに出会ってから

 

泣いたこともあった・・・

 

でも、笑って過ごせたことの方が多かった気がする・・・

 

ときには、叱ってくれた。

 

本気でぶつかって、叱ってくれた。

 

一緒に、泣いて、笑って・・・

 

どうしようもなく荒んでいた心を救ってくれたハルさん。

 

中学の卒業が近づくにつれ、感謝の気持ちが大きくなっていった。

 

今も、その気持ちを忘れていない。

 

 

 

 

 

 

時は過ぎ中学卒業を迎えた俺。

 

中学の卒業式の日には、ハルさんと葵さん、そして宗二さんと美香さんも校門の所で花束を

 

持って待っていてくれた。

 

みんな大はしゃぎで(笑い)

 

とても嬉しかったのを覚えている。

 

 

 

 

 

そして俺は施設を出て、ハルさんが用意してくれたアパートで一人暮らしを始めた。

 

そしてハルさんと、その兄トクさんが経営する会社に就職する。

 

分類すると建設業だ。

 

部活動で体を鍛えていなかったが、空手の御陰できつい肉体労働にもついていけた。

 

初めて給料をもらった。

 

そして家賃も自分で払った。

 

なんか大人の仲間入りしたような気分だった。

 

その頃ハルさんと葵さんは同棲していた。

 

俺はお金の使い方が下手で、すぐ金が底をつく・・・

 

そんなとき「しょうがねぇなぁ」と言いながら、ハルさんが御飯を食べさせてくれた。

 

葵さんは弁当を持たせてくれた。

 

 

 

俺は、そんな些細な優しさが嬉しくて、一生懸命に働いた。

 

毎日ヘトヘトになるまで働いた。

 

昼に食べる葵さんが作る弁当が、たまらなく美味かった。

 

そんな俺は朝起きれなくて・・・毎日ヘトヘトに疲れていたからって言い訳をしてみる。

 

夜更かしもあるだろうな・・・

 

アパートには最低限の家具はあって、テレビも冷蔵庫も洗濯機も炊飯器もあった。

 

テレビが自由に見られて嬉しくて、よく夜更かししてテレビ見てた。

 

この業界の朝は早い。

 

毎日ハルさんが車で迎えに来てくれた。

 

ハルさんは合い鍵を持っていて、朝起きれない俺の服の中に氷を放り込み

 

「起きろ~朝だぞ~」って無理矢理起こされる。

 

相変わらず、やり方が常識を外れているが、ハルさんの優しさが伝わる。

 

とても充実していた。

 

 

 

就職して初めての給料日、

 

ハルさんは、「いくら入ってた?」って聞いてきたので見せた。

 

そしてハルさんの顔色が変わる・・・

 

そして「少な過ぎる」とだけ呟き、兄のトクさんがいる部屋へ入っていった。

 

 

外にいてもハルさんの大声が聞こえてきた。

 

兄でもあり社長でもあるトクさんに、俺の給料を増やす交渉に行ったのだ。

 

「おい、あれじゃかわいそうだろ!」

 

「能力給は付けられないのは分かるが、あんなに一生懸命に働くT.Sの姿勢を評価すべきだ

 

ろ?」

 

「一生懸命働くその姿勢を評価すべきだ!」

 

その後もハルさんの怒号が響く。

 

俺は、ハルさんの気持ちがとても嬉しかった・・・

 

涙が出るほど嬉しかった。

 

ちゃんと俺のことを見てくれてたのが、何より嬉しかった・・・

 

技術職なので、まだ何にも仕事できなくて雑用ばかりだった俺。

 

だけどハルさんは、ちゃんと見ていてくれた。

 

そして社長室から出てきたトクさんが来月から2万上乗せするって約束してくれた。

 

 

ここで少し俺が就職した当時の会社の状況を説明します。

 

会社の建物、及び作業場は、後継者がいないということで廃業した会社を賃貸で借りていた。

 

当時の社員は技術職が3人事務員が1人、そして俺。

 

もちろんハルさんとトクさん以外の社員の数だ。

 

技術職はハルさんとトクさんがスカウトして連れてきたらしくエキスパート集団。

 

同業者の応援という形で社員を派遣するということもやっていたので、

 

他の同業者の技術者と比較しても、この会社の技術職はエキスパート集団でした。

 

ハルさんは営業から設計に図面作製に書類製作、監督業、指揮、技術者、最初から最後まで

 

を一人でこなしてしまう超が付く一流のスーパーマンでした!

 

仕事には、すごく厳しい人でした。

 

そして、こんな以外な役割も・・・

 

社員全員の心のケア。

 

心理学を学んだハルさんにしかできない仕事である。

 

ハルさんは社員みんなに絶大な信頼を得ていた。

 

そしてトクさんも絶大な信用があった。

 

銀行に融資の交渉や入札物件の駆け引き、そしてハルさんがこなす業務も全てできた。

 

ただ話によると「技術者としてはハルには勝てんよ」と誰もが言っていた。

 

トクさんは会社の「頭脳」であり、ハルさんは「心臓(核)」であり、

 

駆け出しの俺は二人を尊敬していた。

 

事務員のお姉さんは、いつもハルさんに通りすがりに、胸キュッって軽く揉まれたり・・・

 

セクハラ受けてた(笑)

 

ただ事務員のお姉さん本人は、そんなに嫌がってなくて、

 

「あれがハルさんのコミュニケーションだから慣れたわ」って笑って話してた。

 

でもセクハラはやめようねハルさん・・・

 

「組織は人が集まるゆえ、人同士のトラブルは必ず起きる」が

 

ハルさんの口癖だった。

 

それを陰でトラブルが起こる前に察知し解決しているのもハルさんだと知った。

 

わだかまりになる前に心のケアをする・・・

 

ハルさんは、本当にすごい人だった。

 

取引会社からも絶大な信用を得ていた。

 

 

 

 

そしてハルさんの兄であるトクさんも、優しい人で・・・

 

俺は、この会社にいられることを誇りに思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして俺が就職して4ヶ月が過ぎた頃・・・

 

ある事件が起こる。

 

そしてハルさんと葵さんが俺の前から消えることになる・・・

 

 

 

 

 

その話は次回で話ます。