葵さんは病院から自宅に戻ってきて、静かな一日を家族で過ごした・・・
ハルさんと息子Tと娘Kは、葵さんから離れることはなかった・・・
葵さんが病院から自宅に運ばれるとき・・・
担当医と担当の看護婦さんが深々と頭を下げ、葵さんを見送った・・・
俺はそんな光景を思い出しながら、お通夜の準備のお手伝いをしていた。
そして次の日、しめやかにお通夜は執り行われた。
そして、お通夜が終わった夜、ハルさんは蝋燭を絶やさないように、番をしていた・・・
そこへ葵さんの二人の兄がやってきて、騒動が起こった。
そのとき俺は、宗二さんと美香さんと真美さんと一緒に、
お茶を飲んで葵さんの話をしながら、休憩していた。
そんなとき、葵さんの兄ふたりの怒声が聞こえてきた・・・
そして、俺たちはハルさんの元へ駆けつけた。
・・・ハルさんは、葵さんの兄ふたりに罵声を浴びせられていた。
「葵はお前に出会わなければ、もっと幸せだったはずだ!おまえのせいで死んだんだ!」
「おまえのせいだ!おまえが葵を殺したも同然だ・・・」
葵さんの兄ふたりは、怒りと憎悪に満ちた声でハルさんを責めていた。
ハルさんは、その場に泣き崩れ、
「ふたりの言う通りです・・・」「葵を助けられなかったのは俺のせいです・・・」
ハルさんは、自分自身も責めていた。
そして真美さんが兄ふたりを制止しながら・・・
「お兄ちゃんたち、もうやめて!」
「アオねえは幸せだったよ!あたしが証明するから・・・」
「お願いだから、もうやめてよ・・・」
真美さんが涙で顔をグシャグシャにしながら、そう訴えた。
そして葵さんのふたりの兄も泣き崩れる・・・
俺も宗二さんも美香さんも、我慢できなくなっていた。
「葵さんが幸せだったことは俺も証明できます!」って言おうとしたら・・・
そこにトクさんがやってきて、俺たちの肩を優しく叩いて、首を横に振った・・・
トクさんは、葵さんのふたりの兄に近寄り、ふたりの兄の肩を抱いた。
「ハルは、もうボロボロなんです・・・」
「もう勘弁してあげてください」「おふたりのお気持ちはよく分かります・・・」
「話なら俺が聞かせてもらいますから・・・さぁ、向こうに行って少し落ち着きましょう・・・」
こう促し、泣き崩れる葵さんの兄ふたりを連れて行った。
去り際にトクさんは俺たちに「ハルを頼む・・・」そう言って去っていった。
俺たちは、泣き崩れるハルさんに歩み寄り、
宗二さんと美香さんと真美さんと4人で肩を組んで、ハルさんを囲む様に座った。
ハルさんは、もう限界だった・・・心はボロボロだった・・・
一番大切な葵さんを失った悲しみは、ハルさんから何もかも奪っていた。
もう立ち上がることさえできないほど、自分自身を責めていた。
真美さんが泣きながら声をかける・・・
「ハルちゃんは、よくやってくれたよ!あおねぇは幸せだったよ・・・」
俺も泣きながら声をかける・・・
「ハルさん、負けちゃダメだ!絶対に負けちゃダメだ!」
「あんたは負けちゃダメだ!負けないでくれよ!」
美香さんも泣きながら声をかける・・・
「ハルちゃん・・・ハルちゃんには、まだTもKもいるよ!」
「まだ全てを失ったわけじゃないよ?!」
「葵ちゃんの忘れ形見がいるよ!」
そして宗二さんは、何も言わなかった・・・
ハルさんが、宗二さんに抱きつき
「一番大切な人を守れなかった・・・」
と、すすり泣き言葉を発した。
しばらく宗二さんは、ハルさんを強く抱きしめた。
そして宗二さんが口を開く・・・
「ハル・・・おまえは、よくやった!本当に最後までよくやったよ・・・」
「おまえのせいなんかじゃない!」
「胸を張れよ!」
「自分を、もう責めるな・・・」
「そうじゃないと、葵ちゃん浮かばれねぇだろ?!」
宗二さんは知っていた・・・
「おまえのせいで死んだんだ」
って言葉はハルさんにとってトラウマあり、心をえぐる言葉だということを。
しばらくハルさんは、立ち上がることもできずに泣き続けるだけだった・・・
息子の叶を亡くしたときは、葵さんを支えるため、悲しみを堪え気丈に振る舞っていたが、
このときばかりは、今までにないほど打ちのめされていた・・・
ハルさんが少し落ち着きかけた頃、夜が明けた・・・
数時間後には葵さんの葬儀が執り行われる。