葵さんが旅立って一週間が過ぎた。

 

この頃ハルさんは、やっと落ち着きを見せていた・・・

 

しかし無気力で・・・抜け殻のようだった。

 

話しかけても、まるで頭に話が入ってこないようで、

 

ボーッとすることが多かった・・・

 

 

そして時間があれば、アルバム、葵さんが残した筆談に使ったスケッチブック、

 

手紙、葵さんの足跡があるものを何度も何度も見返していた。

 

 

・・・この人は、本当にたくさんのモノを背負っていた・・・

 

最愛の妻の死、最愛の子供の死、両親の死、過去の彼女の死、現在生きている子供達、会社の社員・・・

 

俺が知るだけでも相当なモノを背負っていた。

 

 

宗二さんや美香さん、真美さんも俺も・・・

 

ハルさんの心を癒すことはできなかった。

 

 

・・・そして少し時は経つ・・・

 

ハルさんは仕事以外で外に出かけることは、ほとんどなくなっていた。

 

子供と向き合う時間も増え、子育ても必死でやっていた。

 

 

もちろん、子供の心のケアもしっかりやっていた。

 

でもハルさんが元気に振る舞うことはなかった・・・

 

 

 

 

 

 

この頃、俺に第一子が誕生する。

 

自分の子供がかわいくて仕方なかった。

 

俺も親になったのだ!

 

そして、こう思った。

 

もし、自分の子供が亡くなるようなことがあったら・・・

 

俺はハルさんや葵さんが、どれほど苦しんだのか真の意味で、

 

やっと理解できるようになっていた。

 

 

 

妻のことでも、そうだ。

 

ハルさんの苦しみが理解できる。

 

このハルさんは、どれだけの苦しみや悲しみを、どれだけ乗り越えたのだろう?・・・

 

ハルさんの心を考えると、胸が締め付けられる想いだった。

 

いつも心の中で「ハルさん、がんばれ!」って応援していた。

 

そして、俺はバイクの中型免許も取った。

 

そして葵さんが乗っていたバイクを譲ってもらった。

 

今でも、このバイクは俺の宝物だ!

 

 

だけど、みんなでツーリングに行くことは二度となかった。

 

かけがえのない大切なモノを、いくつも失ったハルさんの時間は止まったまま、

 

動き出すことはなかった。

 

 

 

 

 

そして時が更に経過した・・・

 

この頃ハルさんは全身全霊で子供達と向き合い、そして子育てに奮闘していた。

 

でもハルさんの時間は今も止まったまま・・・そう感じていた。

 

そして、この頃から・・・真美さんがハルさんの自宅のすぐ側のアパートに引っ越してくる。

 

それから真美さんは、ハルさんの家に毎日のように家事を手伝いに行くようになっていた。

 

もちろん葵さんが残した息子Tと娘のKを、我が子のようにかわいがり、

 

家事に子供の面倒に至るまで、ハルさんのサポートをするようになっていた。

 

 

 

 

 

この真美さんの行動は、ハルさんも心から喜び「マジで助かるわ・・・」といいつつ喜んでいた。

 

そして真美さんの提案で、

 

生前に葵さんが没頭していた、「白騎士物語」というオンラインゲームをやってみないかと薦めたらしい。

 

そのオンラインゲームには、葵さんが残した足跡が詰まっていた。

 

そして葵さんのアカウントとキャラを引き継ぎ、

 

ゲーム内で葵さんのことを知るプレイヤー達と知り合う。

 

 

 

 

 

オンラインゲームという、ひとつの社会ができあがっていて、

 

よくハルさんはこの話をしてくれた。

 

ゲーム内でできた葵さんの友達と触れ合うことで、少しづつ元気を取り戻していった。

 

俺は、そのゲームがどんなものかは知らないが、

 

ハルさんにとって心地の良い空間だったらしい。

 

そして、この頃から少しずつだが元気を取り戻していった。

 

ハルさんの止まった時間が、ほんとうに少しずつ動きだしようだった・・・

 

 

 

 

 

 

葵さんがゲームの中に残した足跡・・・

 

それを追ってハルさんは、葵さんの足跡全てを胸に刻み込む・・・

 

決して忘れないように・・・

 

悲しくても苦しくても・・・笑顔で前を向けるように・・・

 

忘れることで前に進むのでなく、忘れないように胸に刻み込み前に進むハルさん。

 

これが、いったいどれだけの苦しみを乗り越えることなのか?・・・

 

俺には到底理解できない苦しみなのだろう。

 

 

 

 

 

そして葵さんを失って一年が過ぎた頃・・・

 

ハルさんは笑顔を取り戻していた。

 

子供に支えられたとも聞いた・・・

 

もちろん真美さんの支えは、大きく貢献したことだろう。

 

そして、もちろん多くの人に支えられた御陰なのだろう・・・

 

 

この頃、俺は過去に真美さんが打ち明けた、真美さんの気持ちを思い出していた・・・

 

真美さんは、この頃・・・いったい何を思っていたのだろう?・・・

 

男勝りで気が強い真美さんだが・・・やっぱり女性だ。

 

女心ってものが存在するはず。

 

でも俺は真美さんにそんなことを聞けるはずもなく、

 

見守ることしかできなかった。

 

 

余談だが、ハルさんの子供達は「真美ちゃん」と言って、よくなついていた。

 

まるで本当の母親のように慕っていた。

 

ハルさんの子供たちも、真美さんの御陰で笑顔を取り戻していったのは明らかだった。

 

 

そして3月になっていた。

 

葵さんの法要、息子Tの小学校の卒業式、ハルさんは忙しそうにしていた。

 

4月には息子ののTが中学生になり、娘のKは小学二年になる・・・

 

そして難しい年頃になる子供達との、ハルさんの子育て奮闘は続く。