息子Tの卒業式・・・このとき息子のTは母親の葵さんの想いで溢れる。
そこでハルさんは、息子を必死で支えた。
全身全霊で息子にぶつかり、息子の心を癒す。
ハルさんはふたりの子供と、全身全霊で向き合い子育てをし、
子供たちの心を癒し、支えることに必死になっていた。
ハルさんの動き出した時間と、ふたりの子供たちに葵さんの教えが確実に息づき、
葵さんの意志は、確実に子供たちに受け継がれているのを感じることが多かった。
ハルさんと葵さんの子供たちは、歳の割には本当にしっかりしていて、
ハルさんは「環境が子供達を育てたんだ・・・」なんて言っていたが、
俺はそう思っていない。
ハルさんと、そしてハルさんを支えた真美さんの努力の賜だと思ってる。
そして子供達の中で生き続ける葵さんが、親子の絆を繋いだのかもしれない。
子供らしくない部分も多々あるが、本当にいい子たちに育った。
家族で助け合って、葵さんの死を乗り越えることで、掴んだ絆だと思う。
俺が知らない、問題もたくさんあっただろう・・・
でも、このとき家族で一緒に笑える、そんな温かな家庭が築かれていた。
そして少し時が過ぎる・・・
この頃ハルさんは、兄であるトクさんの強い薦めで「お見合い」をすることになる。
相手の女性は若くキレイな人だ。
その女性は過去に子宮を患い、子供を産める体ではなかった。
何度か会ううちに、その女性はハルさんをすごく気に入っていたそうだ。
(この人は、本当にモテる・・・不思議だ)
俺は真美さんの気持ちを知っていただけに、真美さんのことが気になって仕方がなかった。
俺は、あるとき真美さんを食事に誘い、そして真美さんの気持ちを聞いてみたんだ。
だが真美さんは、ハルさんのお見合いのことを応援していた・・・
俺は真美さんに聞いてみた・・・
「ねぇ真美ちゃん。本当にそれでいいの?」
「ハルさんのこと・・・今でも好きなんじゃないの?」
「このままだとハルさん取られちゃうよ?」
と・・・
そうすると真美さんの気持ちを聞けた・・・
「あたしはね。ハルちゃんと一緒になりたくて家事や子供の世話をしたわけじゃないの」
「ハルちゃんや子供達を助けたくてやっただけ。ただの自己満足よ」
「だから・・・ハルちゃんのお見合いが成功したら、あたしは出て行くよ」
とても哀しそうな笑顔で、そう話してくれた。
俺は更に聞いた。
「ハルさんのこと、今はもう好きじゃないの?」
真美さんが答える・・・
「ハルちゃんのことは、今でも好きだよ・・・ずっと前から・・・そしてずっとこの先もね」
「もし叶うのなら・・・ハルさんと・・・」
「でもハルちゃんの中には、「あおねえ」がずっといる」
「ハルちゃんの中の「あおねえ」を消すことはできないわ」
俺は・・・黙ることしかできなかった。
このときハルさんは、お見合いの女性に惹かれながらも
自分の中に居る葵さんとの葛藤に、モヤモヤしていたという。
そして真美さんの気持ちにも気づいていた・・・
このハルさんは数々の心理学を学び、そして「行動心理学」を最も得意としていた。
相手の仕草や行動や言動で、相手の心理を読むのに長けていた。
真美さんの気持ちに気づいていないはずが、ないわけがない。
ただ乱れた自分の心の分析は、できないみたいだった。
そこにハルさんの判断を後押しする存在がいた。
息子のTだ。
このハルさんの息子Tは、ハルさんにある時こう言う。
「もう母さんを忘れちゃうの?」
「俺の母さんはひとりだけだよ?!」
「父さん・・・母さんを忘れないで!結婚なんてしないでよ・・・」
こう哀願したという。
中学生の頃ってのは多感な時期です。
その小さな胸の中に眠る想いを、父親のハルさんに対して爆発させた。
そしてハルさんは、お見合い相手の女性に、丁重にお断りをした。
傷が深くなる前に・・・相手を気遣って関係が深くなる前に、付き合いを解消した。
ハルさんも葵さんを失って、寂しかったのだろう・・・
でも、そんな感情よりも・・・
息子の気持ちを大切にしたんだと思う。
もちろん真美さんの気持ちも・・・
相手の気持ちを傷つけることなく、優しく別れてきたという。
俺のお節介など無用だった。
ハルさんは、ちゃんと考えていた。
さすがですよ。ホントかっこいい親父です!
そんなこんなで季節は移り変わって行く・・・
そして・・・この後、まだまだいろいろなモノを失って行くハルさん・・・
ある事故を機に体の自由をも失ってしまう。
そして現在のハルさんに繋がって行くんです。
このハルさんが壮絶な事故の末、心肺停止で病院へ運ばれ、そして生還します。
何度も「死」に直面し、それでも何度も生還を果たします。
この後の話は順を追って、また語りたいと思います。