息子Tの高校の卒業式が無事に終わった。
その卒業式には真美さんが出席。
艶やかな着物に身を包み、息子Tの卒業を目に焼き付けた。
息子Tは、そのまま友人たちと打ち上げに・・・
真美さんは卒業式の帰りに俺の会社に寄った。
真美さんが息子Tの食事や身の回りの世話をするようになったのが、葵さんが亡くなってから・・・
息子Tが小学六年の頃からだ。
そのTが三月一日に高校を卒業した。
真美さんにとって感慨深い行事だったようだ。
卒業式が終わりTは真美さんのところに駆け寄ってきて・・・
「母さんありがとう!おかげで卒業できました。ほんとうにありがとう!」と言った。
真美さんはその言葉を聞いて、涙が止まらなかったそうだ。
嬉しくて嬉しくて涙が止まらなかったらしい。
あの真美さんが人前で号泣したらしい・・・なんか想像できない。
真美さんとTが過ごした七年間・・・真美さんにとって宝物らしい。
そんな話をした。
真美さんは泣きながら俺に話してくれた。
ほんとうに嬉しそうだった。
そして血の繋がりなくとも真美さんはTにとって「母親」になった証でもあった。
もちろんTは葵さんとの・・・産みの母親のことも忘れはしないだろう。
でもTの真美さんという母親への感謝は、素直な気持ちなのだと思う。
その夜、Tの卒業のお祝いをした。
俺も美香さんも出席した。
そしてTの彼女であるソフィアも。
ちなみにソフィアも同じ日に高校を卒業した。
ソフィアは進学する。
ここにはソフィアのことは詳しく書かないが、芯の強い優しい子だ。
そして真美さん級に美しい娘だ。
両親はカナダ人だが日本生まれだ。そして日本で育った。
そしてTにぞっこんでもある。
Tはこの場でいろいろと語った・・・・・・
父さんが死んだとき俺はKの父親代わりにならないと・・・そう思った。
でも、どうがんばっても父さんのようにはなれない。
けど・・・それは当たり前のことで俺は俺!父さんは父さんだから・・・・・
それでも・・・・俺はKの父親代わりになるからな。
K!おれを頼れ!父親だと思って貰って構わない。
Kは俺の妹だからな!俺が守る!
だから母さん。一人で背負うな!俺が半分背負う!母さんも俺を頼れ!
この家族は俺と母さん二人の柱で支えればいいんだ。
俺は家族を支える柱の一本になるよ!
こう言った・・・
俺は感動してしまった。
すでに両親を亡くし、それでも逞しくこれからをがんばろうとしている。
先日まで高校生だったTが・・・・ここまで成長した。
父の死を乗り越えた強さなのかもしれない。
Tは乗り越えたんだ・・・・・
ハルさん葵さん・・・聞いたか?Tの言葉が聞こえているか?
あんたたち二人の血を受け継いだ息子Tは、こんなに逞しく育ったよ。
そして・・・こんなことも言った。
「テッちゃん。美香さん。俺がダメになりそうなときは遠慮なく頼るから・・・よろしくお願いします。」
俺は・・・・嬉しかった。
俺はまだ・・・・ハルさんの死を乗り越えられていない。
でも俺も強くならなくちゃと思った。
そして真美さんは泣きながらTの言葉を聞いていた・・・
余談だが・・・・Tがダメになりそうになったら、あたしが支えるから・・・」
と彼女のソフィアが言った。
確かにTの一番の力になるのはソフィアかもしれない・・・・
真美さんと美香さんが料理を振る舞い、Tの卒業祝いを終え、ソフィアは遅くならないうちにTが送っていった。
Kも終始、笑顔だった。そして・・・Tの言葉には嬉しそうに涙を流していた。
Kにとって兄Tは心強い存在なのだろう。
Tにハルさんを重ねたのかもしれない・・・
そしてKは真美さんにも、葵さんの影を重ねている・・・
母である葵さんが亡くなったときKは6歳。兄のTは11歳。
小学校に上がる前に母である葵さんを亡くしている。
Kは葵さんの記憶がはっきりあると言っていた。
葵さんとの思い出は忘れられないと言っていた。
Kは卒園式も小学校の入学式も、父ハルさんと行っている。
Kにとってハルさんは、ほんとうに大切な存在だっただろう。
このTとKの未来は・・・明るい未来だと心からせつに願う。
そして・・・・3月4日。
真美さんとKは再び島で生活するため旅立った。
もちろん俺は見送りに行った。
そのときTが真美さんに言った言葉がある。
母さん・・・母さんの帰る場所はどこ?
真美さんが考えて黙っていると、Tが「母さんの帰る場所は・・・」と言いかけると
真美さんが「ここだよね!決まってるじゃない!」
Tは「だよな!」
「母さんとKが戻るまで、俺がこの家を守るから・・・Kのこと頼んだよ!」
Tはこう言った。
すると真美さんは涙ぐんでTを抱きしめた・・・
そしてTは・・・
「いってらっしゃい!二人が帰る頃には俺も、もっと成長してるからな!」
「Kを頼んだ!」
そしてTと・・・真美さんとKは別れた。
玄関先でのやりとりである。
ハルさんが建てたこの家が・・・ハルさんが創ったこの家族が・・・
真美さん、T、K、三人の帰る場所だよ・・・こう言いたかったのだ。
俺はこの光景を見て・・・
そう思った。
しばらくしてTに訪ねた。
そしたら、こう言った。
「父さんが建てた家を家族三人の約束の場所にしたかったから・・・」
「だから確認した。母さんの口から直接聞きたかったから・・・」
「真美ちゃんの答えは、おまえが希望した答えだったか?」と聞いてみた。
Tは「うん」と頷いた・・・
Tは少し寂しそうだったが笑顔だった。
そして真美さんもKも、いい笑顔だった。
子供の成長は早い。
大人が思っているよりも・・・きっと早い。
大人の想像をはるか凌駕している。
Tはあっという間に大人になった。
まわりの同級生よりも、一足先に。
母親である葵さんの死が・・・・
父親であるハルさんの死が・・・・
そして真美さんの愛情が・・・・
Tを間違いなく成長させた。
Tにとっては不幸だっただろう・・・
父と母の死は間違いなくTにとって不幸だっただろう。
でも自分の環境を恨むことなく、真美さんのサポートのもとで成長した。
ほんとうなら・・・歪んでしまってもおかしくないだろう。
でもTは歪まなかった・・・
強い心をもって乗り越えていった。
まだ十代でありながら、精神的な強さはそこらの大人より強い!
俺もいろいろな十代後半の子供達と接する。
夏休みのバイトに来る子たちとも接してきた。
男女ともね。
でも・・・・・・Tはそんじょそこらの子供達より圧倒的に成熟していた。
自分の言葉の重さを理解し、考えて考えて言葉を発する。
相手を傷つけないか?瞬間的に何度も考慮してから言葉を選ぶ。
そんなTにソフィアも心を奪われたのだろう・・・
でも、そんなTも高校生らしさも持っていた。
子供らしさも持ち合わせていた。
夜更かししたり、ゲームしたり、部活したり、友達と遊んだり、恋したり・・・高校生らしかった。
大人の知らない時間で成長していった。
ハルさんと葵さんに、今のTを見せてやりたい!
そう思いながら・・・ハルさんと葵さんのお墓参りに行って、Tの高校卒業を報告しに行った。
・・・・・・・・お墓に供えてある花が・・・真美さんの供えた花と変わっていたのに気づいた。
すぐにTだと気づいた。
Tがお墓に報告に来たのだと分かった。
お墓にはハルさんが好きだったタバコと・・・・
葵さんが好きだった「こしあんの和菓子」と・・・・
真美さんとTとKが写った写真が入った写真立て・・・
いつも真美さんはお供え物は花だけを供える。
間違いなくTだろう・・・
でも・・・タバコはどうしたんだろう?・・・買ったのか?
まぁ・・・許してくれるだろう。
自分自身が吸うわけでもないから・・・許そう。
そのうち、お供え物をTが回収しにくるだろう。
すると・・・美香さんが来た。
美香さんが来るなり俺に声をかけた。
「Tに頼まれてタバコ買ったんだけど・・・やっぱり、こういうことか」
と笑顔で言った。
美香さんは、そう思ってハルさんのお墓に来たらしい。
俺たちはなんだか・・・にやけてしまって、二人で顔を見合わせて笑った。
なんだか・・・ハルさんと葵さんも笑っているような気がした。
ハルさん、葵さん。
見たか?
今のTの姿を!
二人の息子Tは立派に成長したよ!
こんなにも立派に・・・・ね!