翌日、一条の入学する高校では入学式を迎えた。大勢の新入生達がこれから始まる学校生活に胸を躍らせ、先輩達も新入生達を歓迎するため盛り上がっていた。そんな空気の中でも、一条の態度は変わらなかった。
「あっ!すみません!」
廊下を歩いていると、友達との会話で盛り上がっていた新入生とぶつかった。ぶつかってきた新入生に対し、一条は冷たい態度を取る。
アンナ「こんな所ではしゃがないでください。中学校じゃないんですよ?」
「え……すみません……」
「なんか感じ悪……行こ……」
自身に向けられた蔑みの目を横目に、一条は早足でその場から去る。周囲の賑わいに辟易したのか、一条は心の中で苛立ちを募らせていた。
アンナ(高校に入学したってだけであんなにはしゃいで……これからやることだって山積みなのに。)
入学式の翌日から、クラスではどの部活に入るかの話題で持ちきりだった。一条の学校は特殊で、1年生の間は全生徒が部活に入部する規則が設けられていた。
「よし!俺は高校でもバスケ一筋だ!!」
「ここの吹奏楽部、全国経験もあるんだよねー!」
「入ったことない部活にするかなー……」
「聞いた話だと映画同好会ってサボりやすいって。」
アンナ「……。」
クラスでは既に生徒同士でグループができるなか、一条だけ孤立していた。中学校で先輩グループと揉めた経験からか、一条は周囲と馴染むのが苦手になっていた。そんな中、入学式で配られた資料の中の部活動一覧に目を通す。
アンナ「ここは……無難に陸上部にしよう。」
一条は昔から走ることは得意だった。1年間所属して辞める予定なら、慣れているものがいいと考えていた。
キャプテン「はーい!それじゃ、見学に来た新入生のみんな、一旦集合!!」
キャプテンの号令で見学に来ていた新入生達が集まる。1列に並ばせると、キャプテンが指示を出す。
キャプテン「まぁウチに見学に来てるっていう時点でウチに入ってくれると思うんだけど……」
アンナ(どうしてそう思うんですかね?)
キャプテン「今から皆には自己紹介してもらいまーす!名前とクラスと、好きなものを言っていってくださーい!」
キャプテンの指示で、順番に新入生達が緊張しながらも自己紹介していく。その様子を、一条は冷めた様子で見ていた。
アンナ(こんな自己紹介意味あります?本入部してもどうせやらされそうですね。)
キャプテン「はい!それじゃあ次は君!」
一条の番になる。
アンナ「1年2組、一条アンナです。好きなものはありません。以上です。」
キャプテン「そ、そうなんだ…… えらく淡々としてるな……」
アンナ(本当に緊張感のない部活だな……ここに身を置くと色々と疲れそう…… 別の落ち着いた部活にしようかな?)
陸上部の雰囲気に嫌気が差し、一条は部活の変更を考え出す。その空気が伝わったのか、新入生達を中心に場に重い空気が流れ出した、その時だった。
???「ちょっとちょっと~、ソコ暗くな~い?」
底抜けに明るい声が聞こえてきた。こちらに向かってくる足音にキャプテンが振り返ると、一条の態度に戸惑っていたキャプテンの顔が緩む。
キャプテン「あ!〔キッちゃん〕!遅いよ~!」
???「ごめんなさい!ちょっと先生とお話してたんです~!」
アンナ「え……え?」
駆けてきたのは屈強な体つきをした男子生徒だった。しかしその口調とトーンは女性のようだった。男子生徒は新入生達の顔をまじまじと見つめる。
???「あなた達が今年入ってくれるフレッシュマン達? 初めまして!副キャプテンの〔仲正 桔平〕!気軽にキッちゃんって呼んでね~!」
─陸上部副キャプテン 仲正 桔平(なかまさ きっぺい)─
「なんか、凄い人来たな……」
「お、オネエかぁ……」
桔平「みんな表情固いわねぇ。ほらみんな!私に笑ってみせて!スマイルスマイル!」
仲正が急かすように手を叩くと、みな緊張しながら笑顔を作る。
桔平「まだみんな固いわねぇ~ って、あら?」
仲正の目に一条が止まる。仲正に促されてもなお、一条は無表情のままだった。笑顔を見せない一条に仲正は近寄る。
桔平「あなた、全然笑ってないわね。どうしたの?」
アンナ「いえ、陸上部なのに笑う必要があるのかと思いまして。」
桔平「あら、結構頑固な子なのね?」
アンナ「笑いながら走れと?」
桔平「ふーん……結構スマイルにさせ甲斐のある子なのね……」
一条の様子に仲正は考え込むような様子を見せた後、仲正は笑顔を浮かべる。
桔平「決めたわ!あなた、陸上部に入ってちょうだい! 走りながら、スマイルの大切さを教えてあげる!」
アンナ「……はい?」