─SWORD本部─
SWORD隊員「皇城隊長の様子が変です!」
監視カメラを用いて闘いの様子を見ていた隊員が声を上げる。画面越しからでも皇城の動きが狂い始めていることは明らかだった。その様子を見た西園寺が苦悶の表情を浮かべる。
幸浩「まずい……吾妻との長期戦はやはり厳しかったか…… 叶人川。」
真澄「あぁ、もうすでにできてますよ。監視カメラの映像から煙の最大濃度を算出して、フィルターを作成するのに時間がかかりましたが。」
そう言って叶人川が取り出したのはガスマスクだった。テラースモッグが気体である以上、防ぐにはかなり有効だ。しかし、ここで1つの問題が立ち塞がる。
幸浩「問題は、このガスマスクをどうやって皇城の元へ持っていくか、だ。」
真澄「ドローンを飛ばせば吾妻に撃ち落とされ、ガスマスクを破壊される可能性だってある。」
さくら「でしたら私が……」
真澄「いや、君をあの戦地へ送り出すわけにはいかない。渡す前に巻き込まれて命を落としかねない。」
さくら「なら、どうすれば……」
吾妻に対抗する手段でもあるガスマスクをどうやって皇城の元へ届けるか、かなりの危険が伴うミッションに頭を悩ませていたその時、司令室の扉が開いた。
真澄「君は……!」
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蘭世「くっ……!」
盾をはね除けた吾妻に対し、皇城はレイピアの切っ先を向ける。しかしその先端は微かに震えている。吾妻の一挙一動に対し、皇城の警戒心は過剰なほどに上がっていた。
千狛瑠「恐怖に支配されれば、あらゆる事象を過剰に警戒することになる。 お化け屋敷で角を曲がるだけでビクビクするのと同じこと。」
蘭世「黙れ……!私がお前に臆することなど……ない!」
レイピアを突きつけていたにも関わらず、皇城は再び吾妻へ盾を飛ばした。向かってくる盾を、フィアーテラーズが片腕で次々と弾いていく。
千狛瑠「もうこの程度の盾なら弾けるわね。それだけお前の恐怖が増してるってこと。」
蘭世「!」
次の瞬間、吾妻が拳銃を抜いた。これまでより殺気を剥き出しにしてある。その殺気に中てられた皇城が体を大きく反らし、銃弾を回避する。
千狛瑠「盾は使わなくていいのかしら!?」
蘭世(殺気が剥き出しの銃弾なんて容易に躱せたのに……!こんなに大きく避けてしまった……!)
千狛瑠「〔テラースクリーム〕。」
皇城が避けた方向へフィアーテラーズからレーザーが照射される。口から放たれた光を前に、皇城の脳内は一瞬、恐怖に支配される。恐怖に呑まれた皇城の行動と思考は、その一瞬で止まってしまった。
蘭世「ぐあぁぁぁぁぁ!!」
レーザーが直撃し、爆発に呑み込まれた。皇城が地面に倒れ、そこへ吾妻が歩み寄ってくる。地面に転がる皇城の顎へ、吾妻は自身の足を当て、無理やり顔を上げさせる。
千狛瑠「みっともない姿ね、皇城 蘭世。 今この姿を拡散したら、いったいどれだけの人間を失望させられるかしら?」
蘭世「ぐ……!」
満身創痍であるにも関わらず、皇城はなんとか立ち上がろうとする。しかし意志とは逆に、体の至る所が恐怖により震え、上手く力が入らない。そのことを吾妻は見通していた。
千狛瑠「そんなに震えてどうしたのかしら?何か怖いものでも見た?」
蘭世「私を……侮るのも、いい加減に……ッ!」
その瞬間、皇城の全身を鋭い痛みが襲った。隊服を貫通する痛みに皇城が悶える。フィアーテラーズの手には吾妻が装着していたベルトが握られていた。それが鞭のようにしなり、皇城の全身を打ったのだ。
蘭世「ぐ……!あぁぁぁぁぁぁ!!!」
千狛瑠「鉄線入りのベルトで打たれる気分はどう?流石にもう折れたかしら?」
蘭世「……吾妻……!貴様が痛みで止められないのと同じように……私を痛みで押さえられると思うなよ……!」
全身に打たれた跡が残りながらも、皇城は立ち上がる。立ち上がった膝は震え、呼吸は荒れているものの、吾妻を睨む目の光は消えていない。
千狛瑠「分からないわね。恐怖に沈めば何も考えずに済むってのに。どうしてそこまでして私に向かってくるのかしら? 別に私、お前が恐怖に沈めば命までは取らなくていいと思ってるのよ?」
蘭世「随分となめたことを言ってくれるな……!私が立ち上がる理由なんて……生きたいからに決まってるだろう?」
千狛瑠「は?」
蘭世「ずっと生きて……ずっとそこにあり続ける……それがこの私、皇城 蘭世の正義だ……!自己犠牲で消えることも、ましてや敵に負けて消えることなどあり得ない……! どんな姿になろうと、醜態を晒そうとも……!私は、ここに立ち続ける……!」
千狛瑠「……もういいわよお前。 どうせベラベラ喋ったところでお前に精神汚染耐性は無い。このままスモッグを吸わせて終わりよ。」
皇城を完全に恐怖に沈めようとフィアーテラーズが口を開く、口からテラースモッグが溢れ出そうとした、その時だった。フィアーテラーズが赤い線と共に縦に両断されたのだ。
蘭世「!?」
千狛瑠「は……?」
一瞬、何が起きたか吾妻も皇城も理解できなかった。しかし次の瞬間、地面を何かが滑る音と共に、皇城の側に一筋の赤い光が灯っていた。
蘭世「貴様は……!」
千狛瑠「……。」
アンナ「お待たせしました!皇城隊長!!」