(前回からの続き)
「こちら、リコッタパンケーキになります。」
いよいよ、彼女のお待ちかねのパンケーキが運ばれてきた。
「意外とシンプルだね。」
彼女は少し驚いていた。流行りのパンケーキのように、ホイップクリームやカラフルなソースが添えられているわけではなく、シンプルで、パンケーキの上にはハニーコームバターがのり、脇にバナナが添えてあるだけだ。
「うわーっ、すごい!」
パンケーキにナイフを入れた彼女が驚いて言った。
「見て、見て、ふわふわ。」
「ねぇ、ねぇ、切ってみて。」
促がされるまま、取り分けられたパンケーキにナイフを入れてみると、たしかに、チカラを入れることなく、パンケーキは切れた。
「美味しい!柔らかくてすぐに溶ける。甘さも控え目だし、わたし、この味好き!大好き!」
こんなに上機嫌な彼女を見るのは久しぶりだった。それはまるで、無理にテンションを上げるかのようにも見えた。
たしかに、パンケーキはふわふわで、歯で噛み切る必要はまるでなかった。ふわふわといっても、ドライな感じではなく、しっとりとしていて、口の中でほどける感じで、今まで味わったことがない食感だ。甘さは控えめなので、僕はシロップをまわしかけた。
今日、彼女との思い出ごと噛みしめたかった僕にとって、オムレツもパンケーキも少し柔らか過ぎたようだ。
「ヒロシ、こういうの好きだよね。」
返事に困った僕は、ただ黙って頷いた。
そこから、彼女はしばらく無言でパンケーキと格闘していた。僕はただ漫然とパンケーキを口に運んでいた。
あまりにも静かなので、ふと彼女に目をやると、驚いたことに、その目には涙があふれていた。
僕はうろたえた。そんな僕のココロを見透かすかのように、彼女は静かに言った。
「ヒロシ、わかってるよ。私達、もう会えないんだよね。」
胃のあたりがグーッと締め付けられた気がした。そう、僕は今日、彼女に別れを告げるためにここに来たのだ。
…
プロローグっぽいけど、
これで終わり


