院長先生は口を開くと、こう言った。

「……彼は、意外と幼稚なんだね」


一瞬の間。


そして、もう一度はっきりと言い切った。

「凄く幼稚だ」



その言葉には、もはや迷いがなかった。

表情は変わらない。
けれど、その奥にあるのは――明確な怒りと、軽蔑に近い落胆だった。




「無視や暴言で相手を支配しようとする」
「経済的に締め付けて自由を奪う」
「都合の悪い情報は隠す」

これら全て、夫がやってきたことである。



院長先生は、それ以上何かを断じることはしなかった。

けれど、私には充分だった。





不貞回数は一度や二度ではなく、数年にわたって続いていた。

相手は既婚女性。その女性は、現在の夫とも不倫の末に一緒になっている不倫常習犯。


出逢いはアルバイト先。
アルバイト先は、S先生の同期が経営するクリニック。相手の女性は、そこの患者。


ここに毎週金曜日に通っていたが、その前日の木曜日になると決まってこう言った。

「オペが長引くから帰れない」


そして帰宅せず、ホテルを取り、そこから通っていた。


追記の情報まで全て話した。

もう、澱みなく説明できるようになっていた。




――手術後、患者の経過観察で帰れない。
そんなことが、毎週のように起こるものなのか?

そう尋ねた。


院長先生は即答だった。

「そんなこと、あるわけない。帰れるし帰るよ」


そこには、はっきりとした否定と抑えきれない怒りがあった。



続けて、静かに言った。

「生活費は、きちんともらいなさい。当然だよ」


当たり前のことを、当たり前に言う。
けれど、その「当たり前」が守られていなかった現実が浮き彫りになる。

おそらく、呆れていたのだろう。言葉にするまでもないほどに。



そして、このあとに続いた一言が、私が一番欲しかった言葉だった。