朝井リョウ「武道館」 | Rotten Apple

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-あらすじ-
結成当時から、「武道館ライブ」を合言葉に活動してきた女性アイドルグループ「NEXT YOU」。 独自のスタイルで行う握手会や、売上ランキングに入るための販売戦略、一曲につき二つのパターンがある振付など、 さまざまな手段で人気と知名度をあげ、一歩ずつ目標に近づいていく。 しかし、注目が集まるにしたがって、望まない種類の視線も彼女たちに向けられる。
恋愛禁止、スルースキル、炎上、特典商法、握手会、卒業…… 発生し、あっという間に市民権を得たアイドルを取り巻く言葉たち。 それらを突き詰めるうちに見えてくるものとは――。


就職活動を題材にした「何者」や宝塚TOを題材にした「スペードの3」など独自の切り口で現代社会を取り上げる朝井リョウの新作は、トピックスに溢れているアイドル業界。
恋愛スキャンダルによる丸坊主や握手会での切りつけ事件など実際の出来事も絡めながら、武道館を目指すアイドルを描きます。相変わらず題材について思ってることを登場人物に言わせてるだけのようなところもありますが、そういった問題提起を抜きにしてもシンプルに物語としても楽しめる内容になっています。

武道館を目指すアイドルグループの主要メンバー脱退から始まり、それをきっかけとして意図しない露出や容姿の変化、メンバーの違法サイト利用による炎上、そして握手券商法など序盤から様々な要素を取り上げ進んでいきます。エゴサーチや当然のように求められるスルースキル。ネット上の言葉には反応せずスルーすることが正しいとされるようになったのはいつからなのか、握手券をつけてCDを売ることがそんなに悪いことなのか、彼女たちなりに悩み多くの人に知られていく嬉しさを噛み締めながらメンバー同士で絆を深め合います。
アイドルを応援してくれている人は人の幸せと不幸を観たいのではないか。ずっとアイドルでいられるわけではないし、アイドル以外の道で続けられるほどの商品価値がないことをわかっていながら応援を続ける。アイドルを辞めれば不幸を願う目が増えていく。しかし武道館は "人は、人の幸せを見たいんだって、そう思わせてくれる場所" だと、別の道でありながらもそこに立つことを目指す幼馴染への想いを巡らせます。
着実に選択肢の開かれた進路へ進もうとしている同級生を横目に、青春を犠牲にして仕事を優先する日々。家庭事情や秘めていた恋愛感情やメンバーの増減など、不穏な空気を漂わせつつどう収束させるのかと思ったら…一筋縄ではいかないところが朝井リョウらしいなと。

本文中にもあるように今のアイドル商法とされるものはここ数年で出来たものばかりで何もかも変わっていきます。握手会よりもステージの方が重視される空気も確かにありますし、恋愛OKを掲げるアイドルもいます。何にせよ当然とされるものに疑問を持たず自分をそれに合わせていくことが何よりも良くないことだと。賛否両論ある内容ではありますが、アイドルに浸かっていてもいなくても楽しめる内容だと思います。数年経って読むとタイムリーさが薄れて楽しめなくなる内容でもありますので気になった方はお早めにぜひ。