↑↑↑こちらの記事の続きになります。
また、セックスレスの現実シリーズは、2020年に綴っていたものをさらに深く綴ったものになります。
Oさんが深く息を吸い込み、
そっと吐き出したのが分かった。
その瞬間のことを、私は今でもはっきりと覚えている。
あのとき、何を思っていたのか
——正確にはもう思い出せない。
ただ、胸の奥がぎゅっと締めつけられていたことだけは、はっきりと覚えている。
顔を上げると、Oさんとまた目が合った。
その瞳は、いつもと変わらない——
優しくて、包み込むような、
あの人らしい眼差しだった。
私は、涙が溢れそうになるのを必死にこらえていた。
泣いてしまったら、何かが終わってしまいそうで。
だから、ただ見つめることしかできなかった。
Oさんが小さく息を吸い、ぽつりと呟いた。
「この歳になって、こんなにせつない気持ちになるとは思っていませんでした。」
その一言に、心が大きく揺れた。
飾り気のない、まっすぐな言葉。
目を逸らせないほど、胸に響いた。
でも私たちは、それ以上何も言葉を交わさなかった。
触れることも、抱き合うこともなかった。
ただ、沈黙だけが流れていた。
——進もうと思えば、進めたはず。
——でも、それをしなかった。
言葉がなくても、わかっていた。
お互いの心の奥にある想いを、確かに感じ取っていた。
それは、不思議なくらい澄んだ空気だった。
いい歳をして、こんな“純愛”みたいな時間があるなんて——
きっと、周りから見れば笑われるかもしれない。
「キスくらいはしたんでしょ?」
「もったいないよ」
そんなことを、友人たちから何度も言われた。
でも、不思議と後悔はなかった。
あのときの空気、視線、沈黙のすべてが、
私にとっては“ちゃんとした時間”だったから。
Oさんとは、その後も仕事で何度か顔を合わせる機会はあった。
けれど、LINEを交換したからといって特別なやり取りが始まるわけでもなく、
2人で会うことも、何かが進展することもなかった。
それでも、あの瞬間がなかったら——
きっと私は、自分の殻を破ることはできなかったと思う。
ずっと鳥かごの中に閉じ込められたまま、
「私なんて」と自分に言い聞かせて、
心に鍵をかけていた。
でも、Oさんと出会って、視線を交わし、
沈黙の中で心が触れたことで、
私はやっと羽ばたくことができた。
女として、人として、もう一度ちゃんと生きてみたい。
そんな気持ちが、あの日を境に少しずつ芽生えていった。
——ここからが、私の本当のスタートだった。
