携帯を近づけて、  
無事にLINEを交換し終えたとき。

 

私の頭の中では、  
「うわ〜LINE交換しちゃった……」  
そんな声がこだましていた。




でも、そんな浮ついた気持ちとは裏腹に──   




Oさんと目が合った瞬間、  
世界が静かになったような気がした。




彼の顔は、どこか照れているようで、  
でも目を逸らすことはなかった。




じっと、真っ直ぐに、  
私のことを見つめてくる。




私は耐えきれずに、目を逸らしてしまう。  
でも、また目が合って、  
また、私が逸らしてしまって……。




恥ずかしい。  
でも、幸せだった。




そのままの空気で、  
Oさんは次の仕事へ向かおうとしていた。




ふと、視線を感じて顔を上げると、  
Oさんが覗き込むようにこちらを見ていた。




──何か言いたそうな、  
でも言えずにいるような表情。




私も見つめ返してしまった。




そのまま、また数秒の沈黙。  
何も言わず、でも何かを伝え合ってるような  
不思議な時間が流れていた。




Oさんは小さく、深呼吸。




そして、照れくさそうに笑った。




思わず私は聞いた。




「Oさん、今日はなんか……緊張してますか?」




すると彼は、    



「はい。してます。
いや〜緊張しますよ……
してます、してます。するに決まってます」  



そう、小さな声で答えた。




Oさんは私の方へ体を向けたけれど、  
やっぱり何も言わないまま。


 
目で話す──そんな時間が続いた。




何度も見つめ合って、  
Oさんの中にある葛藤が、  
目を通して、こちらにも伝わってきた。




私は、  
抱きしめたくなるような衝動を抑えていた。




この人に、何かを求めてしまったら終わる。  
そうわかっていたから。




──Oさんには守るべきものがある。  
──私は簡単に「好き」と伝えてはいけない。




だから、黙っていた。




だから、目を逸らした。




Oさんが大きく息を吸って、吐き出したそのとき──




再び目が合った。




その瞬間、私は思った。




もう、好きなんだ。  
この気持ちは、隠していても隠しきれない。