旧軽井沢を後にして、私たちが辿り着いたのは──  
どこか懐かしさを感じるレトロな旅館だった。  




若い世代のスタッフの方々が
一生懸命に盛り上げようとしている姿が見えて、  
その昭和レトロな雰囲気は、私も彼も嫌いじゃなかった。  
むしろ「こういう空気感もいいね」と
自然に笑い合えた。     




館内には古い時計やアンティークな時計やランプ、  
昭和の名残を感じる小物たちが
さりげなく置かれていて。  
そういうものが好きな私たちは、  
「懐かしいね」「これ可愛いね」と
言いながら眺めるのも楽しかった。  




まずは浴衣選び。  
何種類も並んだ中から、私は淡いピンク系を、 
彼は爽やかな薄いブルーを。  
たったそれだけのことなのに、
並んで浴衣を手にした瞬間、  
ふたりで「お泊まりに来たんだ」という実感が
ふっと込み上げてきた。  




お部屋に入ると、そこにも昭和の香りが漂っていた。  
派手さはないけれど、落ち着いた広さとレトロな空気感が心地よくて。  
初めて訪れる場所なのに、どこか懐かしいような、
不思議な安らぎを感じた。  
   



夜はすぐに温泉へ行こうということになった。  
「まだまだ時間はあるね」  
そう言葉を交わしながら支度をしていると、  
胸の奥からじんわりと湧きあがってくるのは、
ただただ嬉しいという気持ち。  
ウキウキしながら浴衣の帯を結ぶ手が、
少し震えていたのを覚えている。  




初めてのお泊まりの夜。  
その入口に立っただけで、もう心がいっぱいだった。  
この時間が、ずっと続けばいいのに──  
そんなことを思いながら、私は彼と並んで温泉へと向かっていった。