その夜、電話をかけた。  
でも、もう彼の中では何かが決まってしまっていた。




「今は、会う気になれない」  
「少し距離を置こう。1ヶ月くらい」




──急に突き放されたような感覚だった。  
それでも私は、何かを言い返すこともできず、
ただうなずくしかなかった。




けれど──さらに混乱したのは、
そのあとの展開だった。




話の中で、彼が突然こんなふうに言い出したのだ。




「いろいろ悩んでるみたいだし、  
 家のこととかもあるでしょ。  
 そういうのがちゃんと整理されてからじゃないと…」




……は? 何の話?  
最初は「俺のせいってことか?」と怒っていたのに、  
今度は“私の家庭の問題が解決しない限り”
という話にすり替わっていた。




正直、意味がわからなかった。




話の内容も、彼の感情の方向も、支離滅裂で。  
私はただ、呆然とするしかなかった。




怒り出すと、彼はいつもこうだった。  
こちらの言葉なんて届かない。  
何をどう話しても、彼の中の“物語”が先に進んでしまう。




こっちは、ただ我慢するしかない。  
どれだけ理不尽でも、何も言えない。  
黙って飲み込むしか、なかった──。




私は、泣きながら電話を切った。




言いたいことなんて、何も言えなかった。  
言ったところで、また違う方向に受け取られて、  
また“怒り”が返ってくるだけなんだろうなと
思ってしまって。




怖かった。悲しかった。悔しかった。




でもそれ以上に、  
「私が悪いんだ」って思ってしまっていた。




だから私は、彼から言われた通り──  
そこから1週間、連絡を取らなかった。  
いや、“取れなかった”という方が正しいかもしれない。




何度もスマホを開いて、何度も閉じた。  
送りたい言葉が頭をぐるぐる回るのに、  
文字にはできなかった。




たった一言のメッセージで、  
また傷つくのが怖かった。




でも──限界だった。




7日目。私は我慢できずに、自分から連絡を入れた。  
連絡してはいけないと言われていたけど
連絡してしまったことをまず謝り、
自分の気持ちを綴った。



彼はすぐに返信をくれた。  
でも、そこから何かが元通りになるわけではなかったけど、
1日1回メールのやりとりをするようになった。




彼の中ではもう、「1ヶ月会わない」
という結論が出ていた。  
それは変わらなかった。


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そのまま、私たちは本当に1ヶ月間、会わなかった。




ちょうどその時期にあったゴールデンウィーク。  
本当は1日デートの予定をしていた。




それも、なくなった。  
理由なんて聞けなかった。  
彼も、何も言わなかった。




私はただ、自分が“また悪かったんだ”と思っていた。