ウォルフォビッツの罪  | カフェメトロポリス

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電脳世界と現実世界をいきあたりばったり散歩する。

対イラク戦争の失敗の犯人探しが始まっている。イラク国内の混迷がさらに深まり、撤兵をめぐって、大統領と民主党主導の議会が衝突するという環境の中で、属人的な責任が問われている。

直近では、元CIA長官のGeorge J. Tenetが、イラク戦争の開始決定の鍵になったのが、CIAの大量破壊兵器が存在するという情報だったという、Dick Cheney副大統領の発言などで、罪のほとんどを押しつけられてきたことに対して、新しい回顧録を発表することによって、それに反論するという事態が生じている。At the center of the storm(嵐の中心で)という本のなかで、彼は、イラク侵攻が、Dick Cheneyや政権内部のネオコングループ、ウォルフォビッツ、フェイスなどによってかなり以前から検討されていた事実であるということを暴露しているらしい。ブッシュ政権は、中東の民主化から得られるコストに見合ったリターンを良く計算して、イラク侵攻に踏み込んだのであって、大量破壊兵器云々はそのきっかけ作りに使われたのだというのが彼の主張らしい。

泥仕合の様相を呈してきている。先週、事故死した、デビッド・ハルバースタムが初期のベトナム紛争を報じた、The making of quagmireQuagmire(泥沼)という言葉をふと思い出した。

ニューヨークタイムスの論説で、ウォルフォビッツに対する批判がまたされていた。

Far Past Time to Go

辞めるにも遅すぎる

http://www.nytimes.com/2007/04/28/opinion/28sat2.html

世界銀行総裁という仕事にすがりつくためのみっともない戦いを行うポール・ウォルフォビッツの内心をはかるのは難しい。

世銀改革についての彼の夢は、自分の利益相反行為や申し開きのできない、まずい判断に対する疑惑の中で雲散霧消した。

悲惨なイラク戦争の罪を償うという望みも、彼が現実を否認しつづけていて、そういった否認によって彼の世評が傷つけられ、世銀の実務にも悪影響するということにも頑固に眼をつぶっていることから、果たされそうにもない。

最近、彼に対する不信任を主張するなかで、銀行の腐敗対策チームの40名が、このままではとても任務の遂行ができないと警告した。

ウォルフォビッツ氏のアイデンティティとも言うべき、この施策も、世銀が借り手に対していつも説教していることを自分ではできているのという、当然の質問に絶句してしまうという状況のなかで崩壊に瀕している。

過去に、我々は、ウォロフォビッツ氏が、最貧国に対する債務免除のイニシアティブを取ったことを賞賛し、世銀の開発努力を困難にする、腐敗との戦いが必要であるといったことは適切だと認めてきた。

また、ウォルフォビッツ氏が今の自分に向けられる銀行内の批判の多くが、ペンタゴンでの前職のときのものであるという言い分もわからないではない。

しかし、彼のやりかたが物事を悪化させているのも事実である。スタッフや世銀の株主に対して、自分の判断を丁寧に説明するのを拒否し、元ブッシュ政権のスタッフによって構成される緊密なグループで自分のまわりをかためたのだ。このグループは、その出自どおり、自分の政策に疑問を呈するものを激しく非難したのである。


Mr. Wolfowitz’ battle to hang on is doing even more damage, roiling the staff, wasting top officials’ energies and further alienating big donors. At a meeting with his top managers last week, Mr. Wolfowitz he wanted to regain their trust. That is no longer possible. The best thing he can do for the bank, the country and himself is to step down.

ウォルフォビッツ氏が総裁職に固執すると、多くのダメージを与え、スタッフを困惑させ、幹部たちのエネルギーを徒らに浪費し、巨額の寄付を提供する組織を疎外することになる。

先週、幹部とのミーティングでウォルフォビッツ氏は、彼らの信頼を回復したいと述べた。もはやそれは不可能である。いま彼が世銀、米国そして自分自身のためにできるもっともよいことは辞任することなのだ。(以上)

イラク問題は現在進行形である。イラクにおける米国政策の将来の方向性をめぐる政治闘争が激しくなってきている。イラク侵入という時点で、将来の問題の種はまかれている。アフガニスタンからの撤退と無関心が、911を招いたという歴史を意識しながら、種を撒いたブッシュ政権自身が、中途で撤退することによって生じる暗黒の未来を人質にした交渉が行われている。

ウォルフォビッツ問題は、そんな、複雑な大河ドラマの小さなエピソードにすぎないが、そこに多くの過去が反映している。

政治というのは錯綜している。ものごとを単純に割り切る精神には決して理解しえない世界なのだ。

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