陽介はカロリーメイトを食べながら、レースを観戦している。


トオルは観戦スタンドの高い位置から陽介の後頭部を見つめて電話した。


『おつかれさん。淳のレースはまだ終わってないよな?』


『あっ、どうも。まだですね。もうすぐだと思いますが。』


『よかった。俺はかなり楽しみしているからな。アイツ最後だもんな。伝えて来てもらっていいか?』


『何をですか?』


『お前は最後なわけだし、しっかり運命と踊れよ、と。俺が言っていたと伝えてくれ。』


承知した陽介は招集所へと向かった。選手がずらりと並び腰を下ろしている。


陽介は間を掻い潜り、淳の元へと向かった。


外からパトカーのサイレンが鳴り響いてきている。


トオルは階段を降りて行った。いたって普通の速度でだ。



これから夕方を迎えようとしている夏の空の下、サイレン音も少し丸みを帯びていた。



トオルは淳のスポーツバッグに拳銃を放り込み、今度は軽快にスタンド席から去って行った。


非常階段付近の自販機でビールを買った。


さすがにトオルにも緊張が押し寄せてきていた。


プルトップを人差し指で持ち上げると、気持ちの良い至福のアノ音が聞こえた。



『ちょっと自由すぎるのではないでしょうか?』


口に含んだ冷えたビールが口角の両脇から流れ落ちた。


耳にはサイレン音が、背中には冷たい刃物が薄っすらと突き刺さっていた。


『三浦か?こら!』


背後から聞こえるマスク越しのこもった声の正体が分からずにいた。