トオルは光恵の手を握った。
彼女の指先からは血がしたたり落ちている。
杏は黙ってその様子を見ていた。
時折スタンドの歓声がけたたましいほど大きくなるが、トオルも杏もそれどころでは無かった。
しばらくしてトオルが光恵のもう片方の手も握りだした。
ただ光恵の体温を感じているだけではないようだ。
2人の両手が結ばれ、ループ状になるとトオルは目を瞑った。
トオルの口元がわずかに動いているのが杏には見て取れた。
絡まりすぎてややこしかった糸が、ゆっくりと解けようとしている。
思いやりも空しさも、お互い伝わりずらくなったこんな時、
さも大げさに、一期一会を口にして、
僕ら2人にだけ効く魔法の粉、互いの空に振り撒いた。
まだ温かい君に、僕は大切な腐れ縁感じている。
好きと言いながらも、やっぱ好かれたい。
だから騙しあいは否めない。
時に不本意に、時にややこしく。それが長続きの秘訣ね?
絡まりあう程、悩んだね。
誰もが皆、繊細。
おちゃらけてる様で相性って奴には敏感なんだ。
クローゼットには入りきらない胸騒ぎ、
誰にも見つからないように身に付けた。
あそこでの待ち合わせ、悩みながらもいい足音心掛けた。
自分らしさもプライドも頭に無い、本能的なあの日程、
本音を出し惜しみしたあの日程、
全てが手探りだけど、
今となっては素敵に思えて、誰にも迷惑をかけないような、
旧友も知らないような、
いけない事をできた気がする。
もう一度君との悩ましい快感を。
僕は正直求めている。
本当の愛かどうかを疑うような
優しいキスを。
今の僕らの薄目具合は丁度良い感じに
あの頃に似ている。
ウジウジ考えたけど、もう何も言葉はかけないよ。
時間がないし。
もう結末は分かっているから。
君が冷めてしまう前にキスで終わろう。
もう一度、最後の熱を入れよう。
ほら、こんなに欲情してんだ。
もうすぐ道ができるよ。
相変わらずだけど、久しぶりだろう。
俺とお前しか通らない道だけど、
今日はしっかり送るよ。
もう2度と通れないだろうからね。
誰も見てないし、思いっきりいけない事をしよう。
何なら仮面を付けて。
大丈夫、なんだかんだとウジウジ考えても
全ては君の歴史の産物。
見れて光栄だよ。
さっさとお気に入りの仮面を付けろよ。それすら愛せるから。
散らかってけど、久々寄ってけよ。
キスだけだってば。
目を瞑ってくれな。
もういいんだ、瞑ってさ。
頼むよ。
最後だし、俺は仮面をとるからさ。
ほらね。
これからの君にも、僕にも、
言おうか。
”おかえり、
そして、行ってらっしゃい。”
thank you光ちゃん。
ごめんな。