トオルが2人のいる個室にダイブした。


杏の持つ銃が上を向いた。


ブルブルと震えている杏の腕に飛び込んだトオルは


拳銃を奪い取ると、個室のドアに激突した。


しゃがみ込んだトオルの目線の先には丁度光恵の膝があり、


血まみれになった彼女の上半身をゆっくりと下から見上げて行った。




生気も何もかもが吹っ飛んだ彼女は別人のように綺麗だった。


廃盤になって入手できない懐かしのレコードを思い出しながら口ずさむ時の気分だ。


いつだって思い出して歌える場所は一緒だ。


トオルが決まって思い出し、リピートしてきた彼女に対する最高の記憶の断片が、これ以上無い形で目の前に存在した。


同時に、仮に時が止まった時の虚しさを実感した。



日に日に曖昧になって行き、美化してきた虚像の根本は胸騒ぎだ。


今から思えば、やり直したいと思った日ほど、心は揺れまくっていた。



全くもって揺れることも、膨らんで張り裂けそうになることも、


増殖して不安になることも無く、まるで石のような完璧な心を手に入れた代償は大きかった。


女々しい事だとは分かっていた。さんざん憎んできたが、彼女のことが好きだったことにトオルは気づかされた。


常日頃、ムシャクシャしたら物事に終わりがあることを教えてやるつもりでいた。



目に涙が溢れ出し、大粒の涙が零れ落ちた。


この思いを何処まで遠くに飛ばしても彼女には届きそうにない。


もうどんだけ思いを募らせようが、掻き集めようが、2度と彼女には伝わらない。


今はただ、会えてよかった、と


それすら伝えられないことが悔しくて、悔しくて仕方が無かった。


本気を出し惜しみした気分だ。



光恵に熱さが無いと言われるのが影ながら大嫌いだった。


本当は、誰よりも野心家だ。


光恵に対しても同じだ。


ハングリーなんて心にしまっておけば良いと思っていた。


口に出して言うものではないと思っていた。


言ったもの勝ちなんて真っ平だ。


取り分け光恵には伝え方が分からなかった。





今なら大声で叫べるのは何故なんだ?


ココにはもう戻らないよ。


もう2度と言わないから、今日だけは聞いてくれ。