スタンドを出て、売店の脇のトイレに光恵と杏は直行した。
光恵の歩くスピードは打って変わって速かった。
スター選手である杏を間近で見た他校の生徒の甲高い声が廊下の一部から聞こえる。
光恵がトイレのドアを前方へ押す。
薄暗い長方形の隙間に杏の体が押し込まれて行く。
光恵は杏の肩を抱きながら歩き進み、振り返らずにトイレへと身を隠した。
トオルはトイレに意識を集中させ、ドアの横で待機した。
個室のドアが乱暴に閉まり、スライド式の鍵がかかる音が外にいるトオルの耳にも届いた。
トオルに緊張感が走る。
携帯が鳴った。
トオルの元へ4代目の泊から一報が入った。
一応現段階で、光恵には、淳がSCREAMの5代目に就任すると答えたという内容であった。
淳は5代目に就任はしない。
トオルはトイレに意識を残しながらも、泊への返信内容を考えた。
必要以上にトイレのレバーが引かれている音が聞こえてくる。
層内の水が果てるまで数回に渡りレバーは引かれた。
トオルは携帯を握ったまま固まった。
光恵は杏の肩を抱き、トイレの中央部まで進むと、口を開いた。
『ところで杏ちゃん、アナタは何しに来たんだっけ?』
杏は戸惑いながらも答えた。
『トイレの中までお見送りするようにと言われたので。』
『トオル君がそう言ったの?』
『はい。』
『そっかぁ・・・。』