光恵はトオルの言動に対し、半ば呆れた態度を取った。
気だるい態度だ。
しかし、光恵の場合は気だるさをもプラスの表現で示す。
トオルの胸に顔を乗せ、体の力を抜いて、彼に身をゆだねる姿勢をとった。
トオルはすかさず拳銃をコメカミに押し付ける。
『おい、面倒くせぇ女だな。』
トオルは2度とだまされまいと警戒した。
相手にとってダメージが大きいであろうと思われる言葉をあえて投げかけた。
光恵は微動だにしない。
『こんなつまらない男だったけ?』
光恵も同じようにトオルの心のツボを刺激した。
お互いが沈黙する。
その数秒間で2人はある種の快感をおぼえていた。
不思議なことにトオルと光恵の距離はさらに縮まってしまった。
この時、トオルは光恵にクレジーさを感じていた。
昔感じた感覚が蘇ってきている。
それにとても興奮し、溺れる寸前まできていた。
これ以上この変態女に見つめられたら俺は終わってしまう、
そう思ったトオルは拳銃をぶっ放したくもなっていた。
全身から衝動が込み上げてくる。
気がつくと光恵の頭に缶ビールを流し込んでいた。
光恵の髪の毛を両手で揉み、それに飽きると鷲づかみにした。
光恵の顔がゆがむ。痛いようだ。
口に入ったビールを毒霧のようにトオルに吹きかけた。
『お前はいい女だよ。俺はお前の体に入ることに快感をおぼえているわけじゃない。
お前が俺の中に入ってくるのが堪らなく好きなんだ。』
トオルは光恵の唾液を好んだ。
光恵の所有物が自分の体内に入ることを望んだ。
光恵もそのことを思い出していた。
『お前、ついて来れんのかよ?』
トオルは少し狂った表情で光恵を挑発した。
光恵は唾を上に吹きかけた。
とても下品だった。
トオルはさらに強く光恵の髪の毛を掴む。
『お前の生きた証はいただいた。』
口元に垂れた光恵の唾液を舌で舐めた。
順序はよく分からないが、
どうやらトオルの中で光恵を殺す準備がととのってしまったようだ。
このまま野見山を呼ばずに居座るのなら、お前を自らの手で殺すと光恵に伝えた。
トオルはビールかけを終えて一区切りを実感している野球選手のような清々しい顔をしている。
滑稽なことにビールをかけられた側の光恵のテンションは一気に沈んでいった。
トオルのスイッチのON、OFFは紙一重のようだ。
光恵はトオルの操縦に失敗した。
トオルは興奮しながらも銃を持っているてまえ逮捕を恐れていた。
どこの誰が警官であってもおかしくないかもしれないと、緊張感は持っていたつもりだ。
淳はあれ以来全くこちらに姿を見せない。
トオルに銃を握らせて以来、連絡をよこさない。
トオルはその点が少し心配だった。
まるでトオルさん、自分のかわりに光恵を始末してください
と言われているかのような錯覚にも陥った。
トオルはその心情を光恵に絶対悟られてはならないと自分に言い聞かせた。
トオルはこっそり淳に電話した。
淳はでない。
光恵はまださほど動かない。
背後で人が動く。
トオルは耳をダンボにして会話を拾った。
警察が近くに迫っていないか疑心暗鬼になっていた。
俺は一体何をやっているんだ。
トオルに自問自答の波が押し寄せた。