陽介とトオルは別れた。陽介は覚悟を決めた。

そして、あらかじめ心の準備をしておくこととした。

色んな想いや、過去の出来事が脳裏をかすめた。その数だけアクセルを吹かした。

もういっそのこと一人の世界に行きたいとすら思った。


陽介は泳ぎたくて仕方がなかった。早くレースが行われないかとウズウズしていた。

泳ぎに集中することで、全てを忘れてられる時間が欲しかった。

それが彼のモチベーションとなった。


『もしもし?今平気か?』


陽介はキャプテンの貴司に電話を掛けていた。


『おっ、めずらしいね。何だ気持ちわりぃな。』


『おう、まぁ明日で練習最後だと思ってよ。早えーよな。』


『そうだな。あっけねーな、意外と。終わっても何度かは泳げるとは思うけどな。』


『俺、かっ飛ばそうと思っててよ。』


『うん、ラストだからよ。思いっきり行けよ。』


『声援なんて聞こえないぐらいにな。』


『ははっ。ぶっちゃけ、お前の応援はコース紹介の時だけだぞ。お前が飛び込んだ時点で、俺らはカールでも食ってるよ。』


『うるせー。』


『いちいちフライングすんなよ。俺らの演技も大変だからさ。』


『お前こそフライングで一発退場なんていう締めくくりはやめろよな。』


『大丈夫だ。俺は遅く飛んでも勝てるから。』


『イヤミな野郎だ。余裕たっぷりだな。』


『何かあったのか?』


『うん。まぁなんつーか、色々あったなと思ってな。一応名簿的には1年から所属してたけど、みっちり泳いだのは今シーズンだけかもなって思ってよ。』


『お前らは、そうだよな。宮崎ボコって参加しだしたもんな。』


『宮崎ボコってねーよ。アイツは自爆だ。野球のマウンド上でプレートにつまずいて後ろ向きに転んだんだ。ズルッと真っ逆さまにな。』


『お前ら不良は何かあると、相手が勝手に転んだっていうのな。』


『黙らっしゃい。冬は筋トレだけじゃ退屈だろうと、あの先生がサッカーしようぜって言うもんだから、徹底的にディフェンスした結果そうなった。お前は筋トレの鬼と化していたから真相を知らないと思うが。これマジ。』


『知ってるよ、そんぐらい。宮崎先生も大会来たらいいのにな。』


『ガツンとした泳ぎを見せてやれないのが残念だ。』


『ボッコボコにしたくせに。』


『うるせー。違ぇつってるべ。』


『お前も淳も速くなったよな。特にお前は速くならなかったが、ジリジリ上がってきたもんな。タバコも止めて。集会も止めて。女も止めて。』


『あぁ。』


『あぁじゃねー。女は違うだろ。恋を止めたんだろ?』


『恋はしている。』


『いいよ、聞きたくねぇ。お前の話し切ないもん。』


『色々悪かった。』


『何が?』


『去年とか。退部させられてもおかしくなかった。宮崎も激怒してたらしいし、俺らのせいで優秀なお前らの出場機会を無くすところだった。お前が色々動いてくれたことは聞いていた。が、これといって礼をするわけでも無かったからな。』


『そんなこともあったかなぁ。ってぐらい忘れていた。すまん。どっちにしろ、もう足洗ったんだろ。それでいい。』


『淳が刺されたり、逮捕者が出たり。すまなかった。』


『俺は俺で、関係ない顔をしている時もあった。偉そうなことは言えないよ。多少、中学の評判は落ちたかもかもしれないが、知ったこっちゃないだろ?』


『お前は水泳界じゃ、ちょっとした有名人じゃないか。未来も期待されている。杏にしてもそうだ。』


『まっ、泳ぎを見せつけてばいい。しっかり泳げば。去年の俺らは腐ってたかもしれないが、変わったんだ。しっかりその姿を見せてやろう。リレーだってメダル行けるぞ。絶対獲ろうぜ。カメラにバシバシ映ってよ。せっかくキャップも水着も揃えたことだし。』


『やべーな。キャップ・・・。』


『お前何だっけ?』


『shyboy .』


『きっついな。俺も人のことは言えんが。テツよりましだから良しとしよう。』


『泳ぎ終わったらキャップ脱いじゃえばいいのか。』


『下らない心配してんじゃねーよ。どう?仕上がり具合は?』


『すこぶる良いね。俄然燃えてきた。』


『それは良かった。せいぜい頑張ってくれたまえ。ペッポコスイマー君。』


『あいよ。それでよぉ・・・、多分俺にとって思い出の大会になると思うんだ。全国だしよ。』


『俺にとっても大舞台だよ。』


『人生最大かもしれない。一生忘れられない大会になると思う。』


『そんなに気負うなよ。』


『いい思い出として残したいと思っている。』


『どうした?真面目モードか?』


『この大会が終わったら、俺は・・・、お前に貰ったスイマー人生なんだが、すまないが俺はまた暴れることになるかも知れない。無意味に人を傷つけるとかじゃなくて。

今、すごい葛藤がある。この大会が終わったら俺は再び滅茶苦茶になるかもしれない。お前は俺を嫌うだろう。一度お前に救ってもらっている分、心が痛むが。

だから、予め言っておく。ショックを受けないでくれ、頼む。

この大会だけは良い思い出としてとっておきたい。この気持ちは本心なんだ。どうか忘れないでくれ。俺の今の言葉を信じていてくれ。』


『まだ、足洗ってないんだな?このボケが!』


『消化しきれてない物が残っている。すまない。本当にすまない。大会終了と同時に退部させてくれ。迷惑はかけたくない。』


『好きにしろ。お前の人生だ。俺はもう知らないぞ。』


『すまん。』


『とりあえず分かったよ。とにかく、明日は練習に絶対来い。ラストだ。明日で最後なんだからな。』


『はい。』


『もう、お前らよく分からねーよ。ほんと喧嘩ばっかしやがって。明日は絶対来いよな。シバク!』


『おう、行くよ。』


『淳もか?アイツもなのか?』


『多分、同じ気持ちだと思う。まだ淳には何も言わないでくれ。』


『わかった。よし、わかった。なかなか飲み込めんぞ、よしわかった。よーし。』


『すまんな、ほんとスマン。』


『お前これだけは言っておく。死ぬんじゃねぇ!これだけだ。死ぬなよ、何があっても。お前が死んだら、思い出作っても意味無くなるだろうが。死ぬなよ。たまにはテキトウにやれよ。切羽詰ったら思い出してくれ。』


『最後まですまない。』


『死ねって意味じゃないからな。』


『わかってる。』


『わかってるじゃねーよ。お前は何も分かってねーよ。』


『とりあえず明日な。ばっははーい。』


『うるせっ。それは俺のセリフだ。まぁ、好きにやりなさい。あばよ!』


『あばよ。今までありがとう。』


『おう、死ね!なんてな。あばよ。』


近所をウロウロしながらボソボソと電話を掛けた陽介は、家へと戻った。