マリーンは杏に気づくと、通りの向こう側から投げキッスをし、ニッコリ笑って応じた。


『杏は恋してる?』


『普通にだよぉ、由香。なによぉ?』


『私、恋してるかも・・・。やばい。』


『誰よ?言いたいんでしょ?誰なのよぉ?』


『まだ秘密。』


『なにそれ、お姉さん。そこまで言っといて。』


『だって・・・淳かも。』


『え・・・、淳? まじで? あの人最近、意味不明だよね。何かちょっと頑張ってるよね。』


『うん。』


『詳しくは知らないけど、聞いた話ではSCREAMっていうチーム抜けて、目標ができたって感じらしいんだけど。』


『もうやってないんでしょ?チームとか。』


『聞かないよねぇ。』


『私、ちゃんと話したこと、あんまないし。杏って凄い仲良いよね。何か貸し借りとか私もしてみたいな。』


『あぁ、あれ? 淳が何か読んでみたら?みたいな事言ってきて、小説みたいなの2冊貸してくれたのさ。私、本とか全然読まないし、読めないから、どうしようかなって思ってたんだけど、1冊は私でも読めるようなやつで、読んでみた感じなんだけど・・・』


『なんで?』


『淳と映画の話してたの。そしたら、その原作なんだって言って。1冊は超難しい本だから読まなかったけど、もう一冊は読めてさ。2冊は無理だったけど、こっちの方は面白かったって言ったら、あの人興奮してた。』


『なにそれ。』


『で、何かお前も貸せよ的なこと言ってきたから、前に由香に貸した漫画を貸したわけさ。最近、変だよねあの人。私、あんま話さなくなったかも。』


『嘘だぁ?』


『本当に、本当に。前の方がいっぱい喋った気がするんだよね。まぁ、あの人も凄い気分屋だからなぁ。』


2人は信号を渡り、マリーンのいる方へ歩いていった。ダンスは終わっており、ダンサーの彼女達は地べたに座ってジュースを飲んでいた。


『どうも、踊ってました。』


『見てました。マリちゃん元気だねぇ。』


『踊ってないと、なんか変な感じで。大会近いし。』


『プレッシャーなんて無いくせに。』


『ありますよ!もう。』


『怪我しないようにね。』


ダンサーは高校生も混じっているようであった。その中の一人が杏に話かけた。


『私、杏ちゃんのこと知ってるよ。去年見たもん。速いよねぇ。あっ、マリがね、杏ちゃんには絶対負けませんって言ってたよ。』


『言ってないから。何を言うのかね、チミは。』


『まじでぇ? ねぇ由香、後輩にイジメられてるんだけど。』


『ウチの杏も負けないわよ!・・・ってマリちゃん、あんまイジメないでね。』


『あら由香ちんまで。別にそんなこと言ってないっす。普通に頑張るだけっす。』


『うん。普通にね。』


話し込んでいると、後ろの通りに一台の車が停車したのが分かった。マリーンがチラっと目線を向け、戻した。


『マリ、お迎えじゃない?』


メンバーの一人が言うと、彼女はもう一度車に目をやった。


『うん、まだ大丈夫。』


そう言うと、再び話し込んだ。すると1、2分後、車のドアが開き、男が一人降りてきた。

男はこっちにゆっくりと近づき、マリーンの頭に手を置いた。


『どうも、蓮見です。まさか杏ちゃん&由香ちゃん?はじめましてです。最近マリちゃんに遊んでもらってるんです。もうちょい皆で遊んでから帰る?』


『どうしよっかな。いや、もう帰ります。杏ちゃんも由香ちんも一緒にいい?』


『もちろん。あっこんど皆でご飯でもいきましょうね。』


『はーい。ありがとうございます。』


ダンサーのメンバーが返事した。杏と由香は少しボウ然としていた。自分達より大人っぽいやり取りをここのところ見たり聞いたりしてなかったからだ。


『じゃ、行こうか。』


杏と由香は後ろに乗った。マリーンはすかさず話を始めた。


『えっと、トオル君です。ダンスしてて知り合ったんだけど、夜は危ないからってよく送ってくれるんです。』


『そーいうことです。よろしくね。2人のことはよく聞いてるよ。大会はもう2日後だっけ?頑張ってね。』


『ありがとうございます。』


『あっ、トオル君これありがとう。』

マリーンは一冊の本をバッグから取り出した。


『おう。おいといて、そこに。下らない本だろ?』


『うん。でも面白かったよ。たまにはいいね、気分転換できたよ。』


杏が何かを言おうとしていたが、止めたように見えた。


『どうしたの?』


『え?あぁ。ちょっとその本見せて貰ってもいいですか?』


杏はトオルに言った。


『いいよ。マリちゃん渡してあげて。』


杏はページをざっと捲った。カバーの無い文庫本であり、所々端が折ってあった。

ページを行ったり来たりさせている。しばらくすると、前にいる2人に尋ねた。


『この本は元々は誰のですか?』


『俺のだけど・・・どうして?』


『私も読んだことあった気がしたので。勘違いかもしれませんが。』


前の2人は笑っていた。私は淳に借りた本のことかなと、すぐに思った。

常に淳のことが頭にあったからだ。


外を見るとハーフパンツ姿の淳がすぐ斜め前を歩いていた。


『あっ』


私は思わず声にだしてしまった。私は淳を目で追っていた。


『誰?いまの淳先輩かな?』


『多分ね。』


『停まろうか?』

トオルは車を端に停めた。淳は車まで追いつくと、チラッと中を覗いた。私は躊躇いながら窓を開けたが無視してそのまま歩いて行ってしまった。


『ご機嫌斜めかな?』

トオルはそう言うと、車を走らせて淳を勢い良く抜かしていった。


トオルは家まで送っていくつもりだったが、2人は駅までで良いと告げ、駅でマリーンと別れた。


『淳、どうしたのかな?怒ってなかった?』


『由香は考えすぎ。大丈夫よ。男が運転してたのが気に入らなかったんじゃないの?』


『かな?』


今日は朝考えてたより淳と話せなかったな、なんて思いながら家に帰った。






『トオル君、ごめんね。一緒になんて言っちゃって。』


『全然いいよ。それよりあの子、恋してるな。』


『由香ちんでしょ?』


『違う、逆の子。えーっと、杏ちゃん。そんな気がする。』


『なんで?』


『さあな。まだ始まったばっかって感じだけどよ。へーって感じだな。』


『何言ってるのか分からないんですけど?』


『なんでもねぇっす。そういや、お前は告白するのと、されるのではどっちかがいい?』


『そりゃ、される方。』


『だよな。』