野見山はCANDYの話を淳から持ちかけられた時のことを思い返していた。

陽介が言っていた通り、淳がSCREAMを脱退してまでCANDYを始めようとした理由が野見山にもよく理解できていなかった。

野見山はある言葉に引っかかっていた。


『野見山、チームやってみないか。俺とお前で。』


『お前と?』


『ああ、俺とお前が組めば、全部ひっくり返るぜ。』


『ほう。』


『本気なんだ。やってみたい。もうオッサンにペコペコする必要はなくなるぜ。』


『それはお前の都合だ。俺はペコペコしねぇ。』


『野見山、お前と組んでみたいと思った。これは本当なんだ。お前となら最強のチームがつくれる気がするんだ。』


『最強か・・・』


『想像してみろ。誰にも舐められないチームができる。』


『俺も、お前のことは認めるよ。ただよ・・・』


『なんだよ。こんなに格好いいチーム他に無いぜ、野見山。一発ブチかまそうそうぜ、一緒に。たまには一緒に何かするのもいいだろ?きっと楽しいぜ。興奮の毎日だ。』


『SCREAMは?』


『すぐに俺らが潰す。あっという間にな。立ち上げと同時にだ。名前は決めた。CANDYだ。お前にトップに立ってもらいたい。最強のシンボルとして。こんなチーム潰せる奴がいうと思うか?』


『確かにな。た、楽しそうかな。ところでCANDYって飴か?』


『飴だ。誰もが舐めたがらないな。』


『ははっ。変な名前だな。面白れぇや。』


『やってくれるか?』


『まぁ、うん。』


『SCREAMから、あと斉木、ゴーストから陽介と田口とかも呼ぼうと思っている。』


『聞いたことある名前だな。ゴーストの三浦だろ。そこそこ強いらしいな。』


『ああ。なかなかやるよ。そんなに、しっかりしたもんでもないが団体行動はOKか?』


『わからん。たぶんOKだ。大丈夫だろ。』


『決まりだ。あと少し待ってくれ。脱退して集まる。』


『わかった。なんか面白そうだな。』


『だろ?無敵に近い。ある種潰れるとしたら、アポトーシスがあって・・・って感じだろ。』


『よく分からんが、とにかく速攻でNo1になろう。ところでお前、トオルと何かあったのか?』


『いや、別に。もう、面白くないんだ、あそこは。興奮しねぇ。それだけだ。』


『ほおぅ。とりあえず、待つぜ。ま、本気ならまた連絡くれ。』


『もちろん。じゃあな。』


『おう。』



『なぁ、すまん起きてるか? アポトーシスって知ってるか?』


『えっ?アポ・・・、うん。確か本で読んだことあるような。細胞が死を自ら選ぶってことだったと思うけど。』


『何の本だ?』


『確か、雑誌だったと思うんだけど。研究系の。』


『あぁ、まさか、トオルのか?』


『多分ね。本を受け取って、ちょっと読んだことあった気がしたな。雑誌にしては凄い値段したから憶えてるわ。』


『詳しく教えてくれ。』


『アポトーシスってギリシャ語で、木の葉が落ちるっていう意味らしいよ。ちょうど今ぐらいの季節だね。秋から冬って感じの。生命体にあらかじめプログラムされている細胞死のことらしくて、決まった時期になると自然とある細胞が自殺を選ぶことなの。積極的に死んでいくっていうポジティブな意味らしいんだけど。』


『細胞が死を選ぶのか?』


『あたかも意思を持ったかのように、死がプログラムされているらいいよ。』


『何のために?』


『生命体、全体のことを考えて、自分は死ぬべきだと・・・積極的に死を選ぼうと思うときが来る運命にあるんだろうね。そうプログラムされているらしいの。決まった時期に決まった場所で死ぬことが。この働きでほとんどの腫瘍の成長は未然に防がれているらいいよ。』


『生きていく上で必要な死ということか。』


『プログラムされた死ね。』


『生かされているんだなぁ。』


『ねぇ。でもアポトーシスはいい意味で使われることが多いわ。生命体、その全体の繁栄に貢献するということで。芋虫から蝶に変わるときもアポトーシスが大きく作用するし、おたまじゃくしからカエルに変わるときもそうらしいわ。』


『アポトーシスが起きないと?』


『そんなアポトーシス機構を持たない細胞はそれこそ、ガン細胞ができても、死なずに成長し続けることになるわ・・・、ってまさか、アナタ自分がCANDYってチームのガンだと思ってない?考えすぎよ。』


『淳は確かに言ったぜ。潰れるならアポトーシスだって。』


『アポトーシスでは潰れないわ。次のステージに進むって意味じゃない?』


『CANDYって組織全体が次のステージに行くってことだろう。要は・・・俺は・・・俺が死んでさ・・・、俺の今の姿は、あたかも必然で、始めからこうなることが分かっていたってのかい?』


『考えすぎよ。淳くんだって今、怪我してるんでしょ。お互い様よ。誰がガンだってことでもないわ。』


キャンディーを産んだのは誰なんだ?野見山は考えていた。自分でないことはハッキリしていた。

普通に考えれば淳だ。野見山をトップに担いだのも淳だった。淳がキャンディー繁栄プランをプログラムしたのか?

もっと純粋な気持ちだったはずだと野見山は思いたかった。淳のCANDY立ち上げの深い理由を聞いておくべきであったと後悔した。それでも野見山は淳を信じた。また、例え信じれなくても、やってしまった事は変わらないことだけは分かっていた。


店内で冬の匂いを感じた。皮肉にも外では木の葉が舞っていそうな強い風が吹いていた。


もし、淳を踊らせることができる奴がいるとすればトオルだ。CANDYはなんだかんだトオルが仕向けたものだったのか。野見山は考え込んでいた。全く答えが出ずにいた。


『ちくしょう。一番強いのは俺だぜ。 淳、CANDYは最強だよな?答えてくれ!』


そう心で叫んだが、実際自分が置かれている状況を考えると不安の波が押し寄せて来て、体が震えた。

野見山は僅かではあるが、恐怖心を抱き始めていた。


逃げて、逃げて、その先に何があるっていうのか。


野見山は光恵の手を握った。


幸せにします、僕はその為に生きよう。


逃げてに、逃げて、逃げまくろう。


俺はこの戦いにも勝ち、勝利者となる。


胸を張って逃げようじゃないか。


今、僕はそう思ってます。