『ごめんね。こんな時、お腹すくなんて変だよね。』


『まぁ変態だからな。うそうそ、いっぱい食べる人の方が俺は好きだよ。』


店のオヤジさんは出来たものからカウンターに出してくれた。漬物と肝の吸い物を2つづ並べた後に

うな重が出された。


『いただきます。』

既に食べ始めていたが、改めて光恵がそう言うと、野見山も小さな声でそう言った。

2人は黙々と食べた。オヤジさんはサラダの準備をしつつ2人の食べっぷりを時折見ていた。

すぐにサラダを出すと、カウンターを出て店のシャッターを閉め始めた。野見山はチラリと後ろを振り返ったがオヤジさんは表情一つ変えず、淡々と作業していただけであった。しばらくすると店内は2人きりになった。


『はい、お口あけて。 だめ、あーんして。』


『はい。』


『ちゃんと噛んでね。あっ虫歯無いんだ、偉いのねぇ。』


『ガキ扱いすんなや。』


野見山はドキドキしながらも、オヤジさんが何処へ行ったかが気になっていた。誘惑に負けて野見山はウナギを箸でつまみ、無言で光恵に食べさせた。光恵はにっこり笑いながらはしゃいでいた。


『お箸、綺麗に持つのね。あっ、こう持つ方が楽よ。』


『ほう。始めて知った。』


光恵の唇を見ながらそう言った。彼女に酔っていた。野見山は、シャッターが風で揺れた音で理性を取り戻した。


『おっと溺れるところだったぜ。』


わざわざそう言って、席を立った。袖の中で拳銃を握りながら奥の厨房に入ると、オヤジさんは冷蔵庫をいじっていた。


『デザート柿でいいかな?それとも、もう帰るかい?』


『い、いただきます。』


『アンタその制服さ・・・。』


『いや、ちょっと』


『・・・明日、朝イチで出るのか?』


『・・・』




『結構前だが、うちの息子が殴られた。あっちのビルの上でな。』


『すみません。』


『重症だった。まぁ、息子も息子で馬鹿やって、毎日変なとこ出入りしてたんだがね。子供の喧嘩ごときと思うかもしれないが、親としては憎んだよ、やっぱりね・・・。アンタ、野見山君だろ?』


『はい。』


『それ以来、息子は、変わっていったよ。』


『・・・』


『アンタに助けられた以来ね。口をきこうと思ってもアンタには話しかけずらいらしい。感謝しているようだ。たまにアンタの目撃情報を俺に話してきてさ、その度にアンタの武勇伝を聞かされたよ。どこまで本当かは知らんがね・・・とりあえず、朝6時にはカミさんが起きて店の方に出入りしだすから、その前には出てってくれ。』


『いいんですか。』


『今日だけだ。後のことは知らんぞ。後で俺の前に風呂に入っとけ。どうせ、ろくな生活できないだろ。』


『すみません。』


『あの子は彼女か?』


『はい。』


『綺麗な子だな・・・大事にしろよ。これ、あの子に剥いてやりな。できるか?』


オヤジさんは手本を見せてくれた。


『ゆっくりでいいから、手切るなよ。』


野見山は柿とお皿を持ってカウンターに戻った。


『柿?』


『おう、オヤジさんからだ。』


野見山はナイフを持って、慣れない手つきで剥き始めた。手元をあまり見られないように会話を始めた。


『朝まで、ここにいて大丈夫だってよ。オヤジさんの息子と前にちょっとあって、それで今日だけならってことでさ。6時前には出てけって。』


『本当に?』


『ああ。あとで風呂に入りに来いって。』


『えっお風呂まで?』


『朝イチで出よう。始発でさ。』


『うん。 あっ、なかなかヤルわね。私も得意よ。はいっ。』


光恵は柿をナイフを受け取ると、綺麗に剥いてみせた。


『滑らかだな。』


『でしょ?これだけは得意なんだ。って自慢にもなんないか。』


4つに切り分けると、野見山の口に入れた。


『美味しい?』


『おいちい。』




オヤジさんが顔だけ出して、野見山に2階を指差した。


『風呂の準備してくれたみたいだな。行ってきな。』


途中まで野見山はついて行き、2階へ上がった。


『本当にすみません、お風呂まで。』


『いえ、ゆっくりしなさい。お湯熱いかもしれないけど、そしたら水足してね。』


光恵は洗面所の方へ入って行った。


『おい、荷物つくれよ。着替えとか、大体の物はこれに入れた。彼女の着替えはないけどな。』


『え?』


『え、じゃないよ。そんな格好して。お前が彼女守るんだぞ。しっかり準備しろ。とりあえず、必要なものをリストアップしろ。』


『はい。』


オヤジさんから古びたスポーツバッグを受け取った。後で買えばいいと思っていた物も、オヤジさんは詰め込んでくれた。野見山が風呂から出るまでを見届けると、ソファから立ち上がり、下へ行くように命じた。

オヤジさんは最後になにか言いたげだったが、うまく言葉にできなかったように口元をモゾモゾさせていた。


『じゃあ、後は頼んだぞ。下、電気消してくれな。できれば早めに出てくれな。何かあったら俺を起こせ。』


『わかりました。ありがとうございました。』


『おい、脱いだ制服は、道に捨てるなよ。ちゃんとしたとこに捨てるか、しっかり焼きな。』


『はい。すみません、いろいろ。』


2人は下に戻った。


『ようやく一日が終わるな。そして朝が待ちどうしい。少し寝なよ。俺も一人で考えたいことがあるし。』


『考えたいこと?』


『整理したり、色々。アンタもしたいだろ?』


『そうね。確かに。』


『寝てたら起こすよ。ゆっくりしな。』


『はい。』


野見山は電気を消した。考えたいことは沢山あったが一気に睡魔が襲ってきた。

始発までがものすごく長く感じた。