耳に突き刺さるようなサイレンの爆音が鳴り響いている。
『ここは病院前だぜ。デリカシーのねぇ奴らだ。必死だな。』
エントランスを出て、植木の間を潜り抜けた。
『淳君のとこ行かなくていいの?』
『淳とはいずれ会える。そう思う。だから大丈夫だ。地元だから安心しろ、ついて来いよ。』
野見山と光恵はトラックを捨てて、逃走した。病院の敷地を出て、いつものごとく慣れたように逃げた。
暗い闇を2人は走った。その姿を街灯が定期的に照らした。時折、光恵の様子を見ながら、野見山は手を握り、影を揺らした。2人は絡まりながら踊るようにして走り過ぎていった。光恵の表情は柔らかく、笑みを浮かべているようでもあった。
『もうちょっとだけ我慢してくれ。』
『OK。ぜんぜん大丈夫だから。』
左折し、少し入った所で5階建てビルの非常階段を登りはじめた。足音を立てぬようにしながらも、素早く駆け上がった。5階まで到着すると、階段の手すりに上り、両手を壁に這わせた。つま先立ちになると中指の先端が屋上の縁に届く距離であった。野見山はそのやり方を光恵に見せて、先に上らせようとした。
『手届くか?無理か?』
『もうちょっとなんだけど・・・。』
『よし。そのまま手を上にあげたままでいろよ。』
大通りを第二陣と思われるパトカーが通過している。サイレンの音に掻き消されながらも、野見山は光恵の両太ももを持ちながらアドバイスした。
『1、2の3でジャンプしろよ、同時に持ち上げるから。ジャンプすれば必ず届くから。手がついたら、力でのぼれよ。下には俺がいるから大丈夫だ。駄目でもキャッチできる。』
『うん。思い切って跳ぶね。』
光恵は跳び付き、野見山が下から体を押した。光恵が屋上に上がると、すぐに野見山は上がってきた。
『まぁ、なんだかんだいつもここだな。俺、なんかここ好きなんだよな。』
淳と出会った場所だった。パトカーが連なって走り去って行く。2人は身を屈めて、大通りの様子を眺めていた。
『ここでしょ? 皆と出合った場所って。また皆と踊れるといいね。』
『ああ。』
『見て!すごく綺麗ね、あっちの方。なんかデンジャラス。』
『どこがだよ。俺は、見慣れたなぁ。うーん、どっか遠く行こうか?北海道とか』
『嘘? 私、北海道出身なんだけど。』
『うぉ! どこ?』
『函館。』
『函館かぁ。いいなぁ。』
『いいでしょ。 ねっ、ちょっと来て。』
パトカーが通り過ぎたのを確認すると、光恵は野見山の手をとった。
『踊ろうよ。』
『俺、踊り方知らないもん。』
『教えてあげるわ。』
野見山は光恵に身を預け、ゆっくりステップを踏みながら、しばらく踊った。
『ねぇ、行かない?』
『おう。行こう。是非とも。』
『嬉しいな、なんか。』
『何でだよ。』
『なんででも、です。 あぁ、お腹減ってきちゃった。』
2人は踊りをやめた。野見山はしばらく黙り、通りの様子をずっと観察していた。打って変わって通りは静まりかえっていた。
『あそこ行くか。確かまだやってるぜ。』
『うん、行く。』
2人は大通りを挟んで向かいの店に入った。
『まだ大丈夫かな?』
『あい、大丈夫ですよ。』
2人はカウンターに腰掛けた。
『うな重セット2つで。』
『はい、かしこまりました。』
『おいしそうね。』
『美味いよ。がっつりお食べ。』
『ねぇ、大丈夫かしら食べてて。』
『平気さ。腹が減っては戦はできんよ。』