トラックは病院へ向かった。淳は地元のすぐ近くの病院にいるらしい。
集中治療室に入っていたという連絡を受けていた。
『あいつ、部活とかやってんだぜ。水泳だっけか。ウケるよな。かなりサボリまくってるみたいだけど。』
『淳君?へーそうなんだ。でも似合うかも。』
『アンタは何かやってたのか?』
『私も中学のときはバスケやってた。高校は何もやってないけど。』
『バスケかぁ。高校ではやんなかったんだ?』
『うん。高校になったら、もっと外で遊んでみたかったし。』
『高校ってどんなところなんだ?中学と何が変わる?』
『そんなに変わらないよ。うーん、私は電車で通学したかったの。すごく楽しみでねぇ。バイトしてお金を持って外に出ればそれなりに自由でしょ?』
『楽しかったか?』
『やっぱ考えてる程、甘くなかったかも。やっぱ出席しなくちゃクビになっちゃうし。学校が終われば楽しかったわ。学校がお昼からなら、もっと学校が好きになってたかも。』
『確かに。学校は昼からにすべきだよな。』
『入学前はね、制服も可愛かったし、電車で音楽も聴けるし、雑誌も読めるし、何だってできると思ってたの。これからは超自由だと思ってたんだけど、実際に通学してみると朝のラッシュでそれどころじゃ無いって感じで。眠いし。急いでいてイライラしている人もいるし。イメージとちょっと違ったわ。』
『なるほどね。』
『そうなの。学校見学とかは、お昼ぐらいに行ったからラッシュとか無くて、こんな生活いいなぁって思ってたのにね。私、音楽も大きめの音で聴く方だから、電車が混んでるとなんか聴けなくて。』
『それは聴いていいと思うよ。』
『でもさぁ、一人で鼻息荒くなってたら嫌じゃない?』
『気にしすぎだよ。』
『だって周りの音、何も聞こえないんだもん。いいよ、どうせ小心だよだ。野見山君だってそのうち味わうよきっと。通過儀礼だね。』
『高校かぁ。行ってみたい気もするな。ま、どっちみち金無いし、行けないけどな。』
『そっか。でも中学も高校もあんま変わらないよ。新しく友達ができてHAPPYってぐらいで。』
『友達ねぇ。まぁ、それも面白そうだな。今は、夢が欲しいぜ。夢がさ。何かねぇかな。夢さえあればよぉ・・・。』
『あれば?』
『親孝行できねぇかなって思ってよ。』
『偉いのね。私はそんな事考えたことないわ。』
『俺、父親いないんだ。だから・・・、母親一人でさ。しかも俺、どうにか、一発金を作って、渡したいな。金銭感覚が狂って、逆に不幸にしちゃうくらい手渡したいなぁ。それなのに今の俺は、警察に追われてまた迷惑かけてさ。この際、縁を切った方がいいかもしれないな。指名手配犯の息子なんてよ、むこうだって御免だろうよ。アンタよぉ、こんなこと言って悪いかもしれないけど、家族の匂いがしないよな。両親は健在か?』
『うち? うーんと、うちもね離婚して、父親に連れてかれたんだけど、一昨年死んだわ。病気で。湿っぽくなっちゃったね、なんか・・・。よし、殺人を犯した指名手配犯が将来を語ってるのに、私が暗い顔してちゃ駄目だね。それにもう過去は変えられないわけだし、未来を考えようよ。明るい未来を。ね?とりあず、今ひっかかってるのはお母さんのことでしょ?私もできるだけサポートするわ。またお店に勤めればお金の援助だってできるし。』
『いいのかよ。』
『何言ってるのよ!アナタらしくない。仮に殺人で捕まっても、お母さんは私が守るわ。殺人を犯しても、野見山君の本質的な部分は何も変わってない事を何度でも説明するわよ。それに長い間、刑務所に入ることになったら、どうやったら中の生活を楽しくできるか、お互い考えましょ?』
『ああ・・・アンタ強いな。 あっもう着くぜ、病院に。』
トラックが駐車場に突っ込むように、勢い良く入った。
野見山は着信したメールを再び、読み返した。
『6階だ。』
2人はエレベータに乗り、6階へ向かった。
『全くどこがどこだか分からんな。集中治療室はどっちだ? とりあえず、右行ってみるか。』
静かな廊下を2人は無言で歩いた。幾つもの部屋が並んでおり、入院患者の名前が部屋のドアの脇に貼ってあった。とりあえず、貼ってある名前は全部チェックして回った。エレベータを降りて、真っ直ぐ見てきたが、淳の名前は見つからなかった。
『場所違うのか?っつーか病院間違えたか?とりあえず、609号室までは見たよな。』
メールには何号室とは書かれておらず、集中治療室とだけ書かれていた。
2人は左に曲がり、続けて部屋をチェックすることにした。
左に曲がってすぐの壁に蓮見徹様と書かれたプレートが入っていたのを野見山が見つけた。
野見山は瞬時にトオルであることを確信した。光恵がこのプレートを見てどう思うかが気がかりであった。
『えっ?トオル君と同じ名前なんだけど。』
『だな。見てくるよ。お前はここで待ってろ。』
野見山はトオルの部屋のドアノブを捻り、少しドアを開いて、体を押し込むようにして中に入った。
個室で中は暗かった。野見山はトオルの部屋であることの確認を深めた。入っていくとベッドにトオルは寝ていた。包帯だらけの姿で右頬を上にして、寝そべっていた。
『こんなとこにいたのかよ、トオル。テメーの寝顔見に来たわけじゃねーんだけどな。そんな趣味ねーし。』
拳銃をホルダーから取出し、顔に向けた。
『寝てろよ大将。』
野見山は拳銃を元に戻した。
『おせーよ野見山。テメーなら絶対くると思ってたぜ単細胞野郎。お約束のごとく現われたな。』
『うぐ・・・。』
トオルは暗闇の背後から現われた。野見山の拳銃をベッドに投げ、髪の毛を後ろに引っ張り、アゴが上がった所で直ぐに首を絞めた。
『泊から血相変えた連絡がきたぜ。やってくれたらしいね。あー腕痛て。お前に刺された腕が痛てえよ、野見山。淳にも会いにきたんだろ。案内してやろうか。お前馬鹿だから道分からないだろ?』
『おい、トオルその状態で俺に勝てると思うのか?』
ベッドの男は起き上がり、野見山に怯えながらも拳銃を隠した。トオルの兵隊だった。
『おい、あれ本物かよ。』
『さあな。お前に話すことはない。ウグ・・・』
トオルの手を解こうと、野見山は踏ん張った。刺した右腕を殴りつけた。トオルは冷静にナイフを首にあてた。
『おい、侘び入れろや、野見山。まずは土下座だ,馬鹿息子。 オヤジがニュースに出てたな。殺したんだって?そっくりだな、お前ら。ラブホの件と銀座の乱射はお前だろ。』
『さあな。』
『お前に連絡入れる仲間はいたか? ニュース見てれば、お前が人殺ししたことぐらい分かるだろ。お前と誰も関わりたくないんだよ。着信履歴すら残したくないんだろうな。哀れだぜ。よぉ、詫びて綺麗になれや。殺人の件は俺が金でなんとかしてやるよ。二度と歯向かいませんって土下座して謝れや。』
薄暗い部屋に光が入った。光恵がナイフをトオルに押し付けた。
『なんだお前。どの面下げて姿見せてんだよ、光恵。』
『ナイフを下ろしなさい。刺すわよ。』
光恵は刃先をさらにトオルに押し付けた。トオルはナイフを持った右手を下ろし、右肘で光恵の腹を強打した。光恵が嗚咽を漏らしながら、包丁を握り直し、突進した。
『刺すんじゃねぇ!』
野見山は叫んだ。普段小声でボソボソしゃべる野見山が初めて大きな声を出した。光恵は踏みとどまった。
トオルはナイフを蹴り落とすと光恵の首にナイフをあてた。
『この馬鹿女が。野見山悪いが刺すぜ。無性に腹が立っている。よって俺はしまいには本当に刺すでしょう。』
トオルの口調がおかしくなった。野見山に緊張が走った。
『刺さないでくれ。』
『どういうことですか?』
『頼む。』
『まさか、恋でもしましたか?野見山君。』
トオルが狂ったように笑った。
『頼む。』
『口の利き方も知らないのですか?』
『頼み・・・ます。』
『お前、恋したんだな。俺のお古に。笑いがとまらねぇな。』
野見山が下手に出ると、トオルの口調が少し戻った。野見山は手元に拳銃がないことを悔やんだ。手元にあれば撃ち殺したいと思っていた。だが、ここで撃てば、必ず淳に迷惑がかかることも同時に頭に浮かんでいた。光恵と出会い、野見山は少し変わっていっていた。
『放してやって下さい、その子を。そしたら謝ります。』
『駄目だ。俺とコイツの前で土下座しろ。』
野見山は膝を畳んだ。足首を床に付けて、頭を垂れた。トオルは足で頭を押さえつけた。
『言え!』
『二度と・・・歯向かいません。』
光恵は涙を見せずに野見山を直視していた。
『もういいでしょ。』
光恵は言った。
『何がもういいんだ? 人殺しが土下座して済むと思うか?』
トオルはナイフを下ろし、携帯でどこかに電話した。
『あっ、警察ですか?本日お世話になりました蓮見と申しますが、野見山が病院に現われました。至急お願いします。はい。』
トオルはゲラゲラ笑った。
野見山はすぐにトオルを殴りつけた。トオルが終わると兵隊から拳銃を奪い取った。
『テメエ、野見山。 詫びいれたんじゃねーのかよ。』
『トオル、俺はお前と二度と同じ土俵に立たないって意味だ。よく覚えておけ。次は撃ち殺す! いくぞ。』
光恵の手をひっぱり、勢い良く部屋を飛び出した。