野見山が警官と何かを話し始めた。
陽介には何を言っているか全く聞こえない。
まだ間に合うのか。今、交番に入り、自分が話しをすればチャラにできるのか?
陽介の体は動かなかった。野見山の怒りの眼差しと手遅れ感が心を占めていた。
『よう、用があんだよ、佐々木。 テメェパトロールもしねぇで、ぶくぶく太りやがって。』
野見山が警官に話し始めた。
『おっ野見山・・・』
佐々木はその体には似合わない甲高い声で言った。
『お前こそ年中ブラブラしてんじゃねーか。お前から来るとはな。派手にやったらしいじゃないの。終わったな、お前。』
『俺が終わった?だぁ?』
『汚ねぇ手を置くなよ、さっき拭いたばっかりなんだから。座れ。』
野見山はカウンターに手を付くと、跳び箱のように越えて中に入り、椅子に座った。
『入ってくんなよ、お前は外だ馬鹿野郎。』
野見山は居座った。
『そういうの迷惑なんだよなぁ、野見山君。問題なの、そっちより中に入られちゃ。』
殺人犯がこのような行動に出ても、即逮捕されないものなのであろうか?
野見山は傷害の線が濃くなったことを感じた。
但し、犯人を刺激しないよう丁寧に対応している線も考えられた。
『話しがしてぇだけだ。』
『お前、分かってるよな? 何したか言ってみろ自分の口で。』
『取り返しが付かないことをした。それだけだ。』
『ほー、珍しいね、君。 精神状態がおかしかったなんていう言い訳はあるのか?』
警官が手際よく、無線で応援の要請を始めた。
『えー野見山が出頭。本人です。直ちに戻ってきてください。』
『待ってくれ、刑事さん。』
野見山は丁寧に言った。
『俺は刑事じゃねぇよ、バカ。今日は帰れないぞ、お前、いいか?』
『それは構わない。 殺した償いがしたい。SCREAMのトオルを殺したのは俺だ。』
時間がなくなった野見山は本題に入った。
携帯電話を取り出し、陽介の画面を開いた。指をコールボタンの上にそっと置いた。
『何時、何処で?』
佐々木が聞いてきた。
『今日、20時ちょい過ぎ。メイン通り。club skyだ。』
佐々木が余計なことを言わなくなった。野見山はそう感じていた。
『ふーん、まぁ、あとは署ですぐ取り調べだな。ちゃんと話せよ。』
『俺は今後どうなる?』
『知るか!身から出た錆だな。とにかく待て。』
しばしの沈黙の後、佐々木が呟いた。佐々木が調子に乗ってきた。
野見山を逮捕することはデカイことなのであろうか。
『お前、マルくなったな。どうした?お前らの年代でどう言うかしらねぇけど、ダセぇな!
すぐゲロしちゃって、立派だよ、野見山君。』
『・・・・・』
『お前いつも単独だよな。友達もいねーのか。 空しいだろ?生きてて。クズが。』
『空しいよ・・・。』
『どうせ新しいチームにも馴染めなかったんだろ? 何やってもクズはクズだな。
これでセイセイしてると思うよ、チームの皆も。つってもあいつらも、あいつらか。
団栗の背比べか。終わったな、お前、チームには帰れないだろ。カスチームに戻っても仕方ねーか。』
『・・・・』
『お前もお前だよな。たかが傷害で。妙なプライド持って、殺人です!だなんてよぉ。余計格好わりいよ、そういうの。そうじゃなきゃ出頭できないんだろうけどな。マルくなったというか、腑抜けになったというか、俺らの時代の方が断然気合入ってたけどなぁ。小っちぇー奴だよ、ほんとに。』
『悪かったな。』
『あっお前、チームに切られたか。カスのチームに切られたか。』
警官佐々木はさっきからケラケラ笑っている。
野見山は下を向いたままだ。
陽介は絶望していた。殺人だったことをリアルに感じると、恐怖心が芽生えてきた。
野見山から吉報の着信はない。
『一つ聞いておこう、大事な話だ。冷静になって聞け。』
佐々木は言った。
『なんだ?』
首が垂れたまま野見山が返事した。
『やったのはSCREAMの一件だけか?』
『・・・多分。俺の場合、よく分からねぇ。』
『ごまかすんじゃねぇ!』
佐々木の声がとてつもなく大きくなり、四角い部屋に響き渡った。
『今日、誰を傷つけて、誰から恨まれてるなんて俺には分からねぇって意味だ。』
『誰も今日なんて言ってないだろ、尻尾出したな野見山。』
『いちいち上げ足とんじゃねぇ。知らねぇよ。』
『お前だろ!やったのは!』
『何の件だ?本当に分からねぇ。』
『腐れたチームのトップはそうやって逃げるのかい?』
『・・・・・』
『お前しかいねぇんだよ。野見山。分かるぜ、テメーの身内を刺したことが言いずらいことぐらいよ!』
『意味が分からねぇ。』
『19時半ごろ何してた? 言ってみろよ。今日のだ。』
『・・・・・』
『チームのことで口論となって小堀淳を刺したのはお前だろうが!』
野見山は警官の足を渾身の力で踏みつけた。
『ナメんじゃねー!!!』
そう叫び、腰にある拳銃で佐々木を頭を撃ち抜いた。
もう誰も俺をナメんじゃねぇ、そう叫ぶと陽介に電話した。
野見山の発砲音が合図になったかのように、陽介は走り出していた。