ちくしょう、マイったぜ。
野見山は行き詰っていた。いくら考えても答えが見えない。
手っ取り早く、勝どきに乗り込み、泊をはじめSCREAMの連中から斉木を解放するのが
先決ではないかと考えた。淳のことは、とりあえず後回とした。
淳が勝どきに居れば、結果オーライじゃないか、そんなことを考え始めた。
『もしもし?辰市? 前にも言った通り、今日SCREAMを襲撃した。結果的に俺がトオルを殺った。
だが、淳と全然連絡がとれねぇ。例のクスブリと一緒にいると思われ、勝どきにいるという説もあるが確証はねぇ。手分けして淳を探してくれ。頼む。』
野見山はキャンディーの残りのメンバーを使い、淳を捜索させた。
『陽介遅せぇな。』
陽介は考えていた。淳がSCREAMと手打ちはしないであろうと。
陽介には行く宛てがまだハッキリしていなかった。どこに行くのが得か思案していた。しばし、構内を右往左往したのち、トイレの個室に行きついた。
和式にしゃがみ込み、ベルトを緩め、息を吐いた。
『ちくしょう』
タバコに火をつけ、しゃがんだまま急に催して来た小便を便器の池に落としていた。
できれば全部池に入れたいな、などと下らないことを考えた。
陽介の意識は和式便所の池に逃避した。
あーっと声が出そうになる。まるで体がリラックスを求めているかのようだ。
まず、池の4つの角を攻め始めた。
電話が鳴った。野見山からだ。まだ電車には乗っていなかったこともあり、かつアイツに関しては突発的なことが起こりやすいので電話に出ることにした。
ビショビショに濡れている床にズボンが付かぬよう注意しながら体勢を変え、タバコを便器に捨て、電話に出た。
『どうした?』
『いや、お前遅せぇからさ。結構いい時間たっただろ?』
『ああ、ちっとさ・・・気分的なもんでコンビニにいんだ。』
『小便してんじゃねーよ。気持ちわりーな、音聞こえんだよ。』
『あっまじ?』
入射角を変えて変えて音を強烈にした。
『遅せぇんだよ、俺ならもうとっくに話して戻ってきてるぜ。ってか音!』
『じゃあお前いけよ。』
『うん、もしだぞ、もし俺が警官にトオルを殺しましたって言ったらどうなる?』
野見山が妙なことを聞いてきた。
『捕まるだろ。どっちにしろ。傷害か殺人で。トオルをさらし者にしたんだろ?ノミの姿は絶対見られてるからな。』
『そうか。捕まるか・・・。 でも傷害なら、ラッキーだよな。』
野見山は笑って言った。
『バカなこと言うなよ。駄目だよ。それに斉木は間違えなく勝どきにいるんだ。お前が捕まってどうするよ。』
『それは・・・、そうなんだが。』
『ちょっとノミ、今どこいんだよ?妙なことすんなよ。おい!』
気づくと変な体勢のまま小便は止まっていた。
『俺が行く。お前は絶対くるな。2分後、行く。いいな。絶対動くなノミ!』
『お前だって行き辛いだろうよ。分かるぜ、そんくらい俺でも。』
『殺人の場合だったとしてもさ、いつかは捕まるじゃんよ。そんなに甘くねーよな。今日か、せいぜい一週間後の違いだろ。 傷害で捕まろうが、俺の年齢じゃ大したことねーよ。慣れっ子だし。 スグでしょ。』
『おめー自分で何言ってるか分かってるのか、こら! お前はキャンディーの代表だろうが!まんまとパクられてどーすんだよ。テメーのエゴだぞそりゃ。』
『そうだ、俺が代表だよ。TOKYO MIDNIGHT CANDY。最高のチームの代表だ。』
『これから伝説を作ってくんだろうが、みんなで話しただろ!』
『ワン・フォー・オールってやつだ、陽介。俺はお前に言うのは、ちとあれなんだが、
俺はキャンディーが好きだ。今まで、あんま俺は他人の力を借りずに何とかやってきた・・・・』
『格好つけてんじゃねー。だったら勝どきにカチ込めや。ノミ違うか?』
『それはお前らでやれ。残り5人の内、3人を勝どきに回せ。 俺は喰らってもたかが傷害だ、すぐ出てくる。最悪、殺人でも数年だろ。またお前らが高校行ったら、そん時は頼むな、入れてくれよ、脂の乗り切った絶頂のCANDYに。楽しみだな。 陽介さん!とか言われたりしててな。』
『バカヤロー。そんな数年後のことなんて知らねーよ。そんな先見てるか?ボケ。夢見てんじゃねーよ。
夢なんか持ってんじゃねーよ!テメーみたいなのが夢語ってんじゃねーよ!』
『テメェ、俺はたった今、まだキャンディーのトップだ。俺の言うことを聞け。ぶっ殺すぞ。何が夢を持つなだ。夢みてーなこと散々言ってたじゃねーか。この腑抜けが。みっともねーぞ。追い詰められて、のたまってんじゃねー。ビシっとしろや!』
『どっちがだよ!』
『お前はキャンディーのメンバーだろ。俺らは最強だ。間違いねぇ。胸を張れや、陽介。
お前は日本一のチームのメンバーだ。誇りを持て。じゃあ、行ってくるな。頑張んだぞ、陽介。お前にかかってんだかんな。俺が傷害か殺人かなんていう結果はほんのすぐで出る。俺がワン切りしたら傷害だ。吉報を待て。またな!
ありがとうな陽介。皆にも伝えてくれ、ありがとう、と。 わりぃ。 じゃ。』
野見山が電話を切った。
『テメー行くんじゃねーよ。おい!行くんじゃねーよ! 一人でいくなよ!コラ! あーーーーー!』
陽介はドアと蹴り開けると全力で走った。野見山を取り押さえるか、野見山より先に交番へ行き自分で尋ねに行くのだ。
人の流れに逆らい、逆走した。人にぶつかりまくり、老若男女問わず、かき分け、なぎ倒して進んだ。
ダッシュしながら時間をかせぐために野見山にコールした。陽介の携帯は相手が取ると自分の携帯のバイブが振動する。右手に携帯を握り締め、振動を期待しつつ全力ダッシュした。
野見山、変な学習すんなよ。
お前は、お前でいんだよ!!
自首したってよぉ、そんなに意味ねぇぜ。
このセッカチ野郎!
自動改札のゲートを跳び越し、小さい階段を4段まとめて飛んだ。
右に曲がると長髪の男。野見山が5メートル先をテクテク歩いていた。
『ノミヤマーーーー!!!』
『誰かそいつを押えろ!押えろよ! 押えろバカヤローー!!』
家路を急ぐ周りの人達に叫んだ。
陽介は足がもつれ、失速していた。
『押えろって言ってんだろ!ブッ殺されてーのか!!あー、誰からだ?』
足を速めた野見山が振り返り、怒りの眼差しを陽介に注いだ。
その瞬間、ゼエゼエ息が上がっていた陽介は、つまづいて前のめりに倒れた。
『ノミヤマーーーー!!!!』
『おい、戻ってこいよ。野見山。』
野見山は”じゃ”と言わんばかりに手を上げ、悠々と交番の扉を横にスライドさせた。
そして中に入り、扉を立ち塞ぐように、仁王立ちしていた。
『ちくしょーーー!!!!ありがとうなんて要らねぇんだよ!あぁああああーーー!!!』
陽介は叫びながら、野見山への携帯コールを切った。
野見山からの吉報を待つ姿勢をとっていた。