某月某日

 

渋谷の雑踏のなかで、昔何回か寝た女を見かける。

実はその女、自分が生まれてはじめてアナルを舐められた女なのだが、

横にいる男が自分とは真逆のガタイのいいラッパーみたいな奴を連れていた。

「……変わっちまったな」とセンチメンタルな気持ちになる渋谷の夕暮れ。

 

 

某月某日

 

向いの一軒家に一人で住んでいる太っている初老のおじさんがいる。
夕方になると近所のネコを餌付けするために日々奮闘中。
 

しかし、一向に寄りついてこないキタローにおじさんが遂にキレだした様子。

「キタロォーー!!!おいぃぃーー!!! どこなんだよぉ、ゴラァァァ!!!」
もはや餌付けの域を超えて、野良猫にブチ切れている。
都会の寂しさここに極まれり。

だが私は見てしまった。

おじさんが寝静まった深夜、キタローとおぼしき猫が

おじさんの家の前をウロウロしていた。

家の電気が消えているおじさんは知る由もなく、翌日またもやブチ切れているのであろう。




某月某日

 

いつも帰りの終電で見かける女性が気になる。同じ駅で乗り同じ駅で降りる。
後ろから見るとモデル級にスタイルがよく、ボディコン系の服を着ており自覚エロ。
しかし、顔を見るとおかめさんみたいな顔をしている。
夜中、近所のスーパーの荷物台で一人一心不乱にみたらし団子を頬張る姿を見たことがある。
推定三十代後半。何の仕事をしているのかとても気になる。

 

 

某月某日

 

家から駅までの道のり。すれ違う女がチラ見してくる。

目が合うと慌てて女は目をそらす。なかなかいい女だった。

次にすれ違う若い女子高生もこちらを見てくる。女子高生は恋愛対象外だが

悪い気はしない。大人の余裕を見せてやろうか位の気持ちで

女子高生と目を合わすとまた慌てて目をそらし足早にすれ違っていく。

今日はなんだかモテる日なのか、見た目が決まっている日なのか。

鹿賀丈史のように「流し目をするだけで女が勝手に吸い寄せられる」

域までもう少しなのか。

ナルシズム全開の俺様気分で駅前のガラスで自分の姿を確認してみる。

チャックが全開だった。

 

 

某月某日

 

ネット徘徊をしていると、女子フィギアスケートの画像にたどりつく。

フィギアスケートに興味もないし、あれを見て喜んでる人は「善人の集まり」だと偏見の目で見ている。

浅田真央を見てもなんとも思わない(女として)のだが、

姉の浅田舞が巨乳だと一目で分かる画像を発見する。

色めきたってしまい、かねてから気になっている安藤美姫と

どちらの方が巨乳なのか小一時間ほど比較しはじめ、

人生の貴重な時間をすり減らしていく自分。

某月某日

 

向いの一軒家に一人で住んでいる太った初老のおじさんがいる。
夕方になると近所のネコを餌付けするため玄関の前に
残飯のような餌を3つ置いている。
そして、二階の窓を開け「キタロー!キタロォ~!!」
っと野太い声で猫の名前を四回呼ぶ。
それを平日土日問わず、必ず毎日行なうである。時には「キタロー……」と
夜中に寂しそうな声で呼びかけることも。
近所でおじさんを見かけると、大体他の近所の人に質問責めしている姿を見かける。

「キタローは呼んだら来る?」「キタロー最近見かけた?」「キタロー見つけたら電話して!」

もちろん野良だと思われるキタローはそのおじさんの餌にはまるで寄って来ない。
家の前の皿にはいつも餌が残っている。

近所のコンビニに向かっている途中、
キタローとおぼしき野良猫が違う家の前に置いてある餌を食べてる姿を見て、
おじさんに知らせてあげようか迷った挙句、黙っておくことにする。

 

 

某月某日

 

電車のなかで腕を組みながらi-podを聴く。
流れている曲は竹内まりやの『駅』。
歌の世界観にどっぷりと浸りながら目の前の座席に座っている30そこそこだと思われる女の顔を切ない気持ちで見てみる。
「この子にもこの子なりの恋愛遍歴があるのだろうな」
となんだか情緒に入ってしまう。余計なお世話だ。

女から少し離れた席に座る眼鏡姿のサラリーマン。推定40過ぎ。
スマホにイヤホンを差しなにかの動画を見ている。その目は澱んでおり、
死んだ魚のような目という言葉が一番よく似合う。何を見ているのか気になり、

サラリーマンの後の窓ガラスに映りこむスマホの画面を見るとなにかのアニメを見ているようだ。
もう少し目をこらして窓ガラスを覗きこむと『天空の城ラピュタ』。
朝起きたパズーが鳩を解放しているシーンだった。

疲れているのだなと感じ入る。

 

 

某月某日

 

うどん屋で辺見えみりを見かける。
あんなにもカワイイお母さんがこの世にいるという事実に軽く驚く。
同じ東京なのに自分が住んでいるのとは絶対に違う世界があるのだと改めて思い知る。

 

 

某月某日

 

友達が昔付き合っていた女と、飲み屋で偶然出会い、酔っ払って女の部屋に行く。
当時友達が「真剣に結婚したいと思っている」と言っていた事を思い出し、
少しためらうがやっぱり抱いてみる。すごいテクニシャンだと知り、尚更後悔の念を抱く。

そして、朝方、女と別れたあと友達が荒んでいたことを思い出しながら家路につく。

 

 

某月某日

 

マンションで晩酌をして酔っ払い、めぼしい女数人に香ばしいメールを送る。
しかし、返事は誰からも来ず、やけ酒に切り替える。
だいぶ酔いも回ったころ、女のメモリーを削除しようかとケータイをいじるが、
冷静になって考えてみて、やっぱり止めておき、素早くベッドに潜り込む。
私が携わっている労働は、基本8時間以上12時間勤務上等なのである。
12時間は長い。12時間働いて、12時間寝れば1日が終わってしまうという当たり前なことが
恐ろしく感じるときもある。
それは酷くマンネリで退屈な時間の積み重ねでしかない。
そんな昨日の焼き増しのような1日がどんどん積み重なっていくことに恐怖を覚え、
次第に麻痺しだし、ただただ勤務時間とわずかな賃金を増やすだけである。
そんなとき、時折見かける三面記事。
そこには、私とは比べ物にならないほど刺激に満ちた生活を送っている人間模様が短く書き記されている。
それはフィクションではなく、リアルな生活のなかの出来事だからこそ、
人間の業の深さと濃さをかいま見ることができる瞬間である。
以前こんな記事があった。

公然わいせつ容疑で上下ストッキング姿の男を逮捕」

昼下がりの市道で、ストッキング越しに下半身が見える姿で猥褻な行為をしていた30過ぎの男性が逮捕された。
事件の3カ月ほど前から、現場近隣では「ストッキングを履いた男性が白昼堂々と猥褻なことをしている!」
との目撃が多数寄せられており、警戒をしていたところ上下ストッキング姿の犯人が現れた為、現行犯逮捕される。
私が日々の労働に飽き々しているときに、時間を時給で埋めている間に、
こんな刺激的な日常を送っている奴がいたのかと驚嘆の思いでいっぱいになる。
見習う気はサラッサラのサラサーティもないが、問題は



「上下ストッキング姿」



という部分である。
ストッキングを履き性器を透けさせているのはまだ分かる。それが女性ならアリだと思う。
しかし”上”のストッキングというのがよく分からない。
もしかして、、、
一昔前に銀行強盗犯がしていた、ストッキングを頭から被り引っ張るあれではないのだろうか。
ほしのあきも、フットボールアワーの岩尾も区別がつかなくなるあの顔で、
下もストッキングでスケスケ。真昼間からその恰好でウロウロする男。
おそらく、ストッキングで顔を吊り上げることで、自らの人相も隠そうという意図もあったのだろう。
昼下がり、そんな出で立ちの男がJOJOポーズを決め背後には「ゴゴゴゴ」という効果音を立てながら
道で猥褻なことをしているのを見かけたら私なら間違いなくPTSDになってしまうだろうし、
見つけた警察官も咄嗟に銃を抜いたことであろう。

なにがどうして、一体犯人をそこにまで至らしめたのか。
私は己の貧困な想像力を精一杯めぐらせては、自分の退屈な時間を埋めていくのである。

以前、このブログで「富永愛(178センチ)におんぶされてみたい」と書いたのだが、
今年の春に、生富永愛をBARで目撃した。
酒を飲んでいるとき、ふと見ると隣の席にいてフツ―に笑っていて、途中まで「あの人はきっと富永愛に似てるとよく言われるんだろうな」くらいに思って気がつかなかったのである。
少ししてから同席している女から「あれ富永愛だね」と小声で知らされ、
本人だと気付いた次第である。

こちらの席で酒をちびちびやりながら、時折ナッツをつまむように富永愛を見てみる。
酒の合間にチラリチラリと何回見ても、あの見慣れた朗らかな般若のような笑顔で笑っていらっしゃる。
あの笑顔のまま固まっているんじゃないか、というほど、あの般若顔のままであった。
般若のようなというのは悪口ではなくむしろ私のなかは褒めである。
小雪の顔も般若っぽいから好きな部類である。
そんな富永愛をチラチラ見ながら私は考えていた。
なにかのきっかけで話してみたいとか、性的な目で観るのではなく、あくまでも
「おんぶされたい、もしくは高いたかーいされてみたい」という純粋なまでの汚れなき願望である。
今年で三十半ばになる汚れ多きオッサンの私が、そんな幼児願望を抱くのは富永愛以外にはいないのである。
小雪だとちがう。満面の笑顔で高いたかいされたあと、スッと手を引き私を地面に叩き落とし
蔑んだ目で見降ろされ「あんた何喜んでんの?マツケン呼ぶよ?」と冷たく突き放されそうな気がするからだ。
小雪よりも富永愛方がきっと満面の笑みで受け止めてくれそうな気がするじゃないか(当社比)。
という、私の心の奥の赤ちゃんの頭のように柔らかいところをくすぐる富永愛。
そんな彼女がいつの間にか入院してて、退院もしてたというニュースを見たので、
快気祝いの意をこめて、東京の隅っこからこうして誰も得しないような原稿を奉った次第である。

もし今度見かける機会があったら、酔ったふりをして
「病み上がりのところスミマセンが、あのう……おんぶしてくれませんか……」
と声をかけてみたい!! と密かに決意する真夏の夜であった。
よく、小説や漫画で「夢オチ」はだめだといわれている。
漫画『東京大学物語』も壮大な夢オチ漫画だったと記憶しているが、
夢オチとはなんでそんなにもダメなのだろうか? と気になり調べてみると、
「諸々の事情で強引に物語を終了させるために用いられたり、奇をてらう目的で使われることも多い。
それまでの世界観や話の流れを根底から覆すことにもなりうるため、作者側にとっては、一種の「禁じ手」ともいえる手法である。」
とwikipediaには書いてある。


私は昔から「夢」をよく見る方である。正確にいうと覚えている方だと思う。
インパクトの強い夢は覚えているという人もいるだろう。
さかのぼれば小学生の頃の夢というのも覚えているのはいくつかあったりするわけで、
確かにインパクトが強かった。
中でも2つの夢が強烈で、いまでも鮮明に思いだすことができる。
1つは、小学生当時、通っていた塾の理科の先生♀の夢。
その先生は当時おそらく20代で、見た目がなんというか、
いまでいうキャバ嬢であり、ボディコンのような服を着て長い付け爪で、たっぷりの真っ赤なルージュをひき
シャネラーのようなファッションの先生だった。見た目はなんとなくYOSHIKIみたいな化粧というか顔立ち。
小学生当時の私も、なにかただならぬエロスを感じており、もちろんクラスの男子たちも色めき立っていた。
宿題を忘れたり、なにか失態をしでかすと、先生からの罰があった。
ほっぺを思い切り両手でつねられるのである。
長い付け爪でかなり痛かった記憶がある。
しかし、つねられるとき、先生との距離は否応なしに近くなるわけであり、
かつ先生の性格も今でいう「ドS」感たっぷりの女王様のような先生であった。
まだ性にも目覚めていない小学生男子たちも、いけない快感に目覚め始めているようで
わざと宿題をしてこない生徒や、失態を演じ先生からの罰を欲している奴隷のような生徒が沢山いた。
そんなSM関係のようなものを感じ始めていた小学生の私の夢に先生は現れた。
塾の階段を先生と一緒に歩いていると、先生から襲われてしまい2人抱き合ったまま階段を転げ落ちていくのだが、
その間身体と身体は重なり合って何かをしているのである。
当時は女子とキスすれば妊娠するかも知れない、などと男子同士囁きあってはキャーキャー騒いでいる年頃であるからして
SEXなんていうことはまったく何がどうなっているのか分からなかった故の、夢のなかのモザイクに隠れた出来事であった。
しかし目覚めた私は、いままでにないほど興奮していたのである。

もう1つはあまり人には言えない類の夢の種類で割愛。
とまあ、そんな感じで記憶している夢はいくつもある。
思い出せるままに書いているとこんな塩梅である。


「クラスの班行動で掃除をさぼっていた男子たち。真面目な女子の中に熊田曜子がいる。
男子はもっと真面目に掃除しなさいよー!と大きな乳房をぶるぶる揺らしながら注意され、
私以外の男子は「熊田は真面目おっぱいブスだぜ!」とか言いながら
逃げていく。逃げ遅れた私に男子を追いかける熊田曜子が近づいてきて、そっと一枚のノートの切れ端を手渡すと、逃げていった男子たちを
怒りながら追いかけて去っていく。私がその切れ端を開けてみると、実は前から好きだった、という内容が記されてあり、
私はお尻をふりふりしながら走って男子を追いかけていく熊田曜子の後ろ姿を見ている

「深夜の西麻布で、仕事帰りと思われる剛力彩芽を連れた私は閉店間際のうどん屋に入り、
剛力彩芽にうどんをごちそうしてあげる。彼女はすごく満足そうにうどんを食べながら「おいしー!」を連呼しており
その笑顔を見て、私も安らかな気持ちを覚える、という夢」

「どこかの高校の卒業式に参列している。来賓席にいる私は卒業生が入場してくるのを拍手しながら眺めているが、
卒業生の列に乱れが生じる。どうやら卒業生の中に身体の不自由な生徒がいるらしく、
他の卒業生がケアをしながら入場しているので、行進の進行が留まっている様子。
ひょいと覗きこむと、手を引かれながら入場してくる女生徒の姿。その姿を見て私は拍手を打つ手が止まってしまった。
手を引く他の生徒から、まっすぐだよ、ゆっくりねと声をかけられながら入場してくる女生徒は制服こそ着ているが
首から上がなかった。つまり顔がない状態だが生きている。
どうやって生きているんだろうか、という疑問よりも、卒業してから大変じゃね、という普通に心配をしているという夢」

パッと思い出した夢だけ書いてみたが、芸能人やらホラーじみたものやら、なんだか現実世界よりも
随分とバラエティに富んだ夢ばかり見ている私なのである。
だもんで、日常生活がつまない日はとっとと寝て、面白い夢を体験したいと強く願いながら
夢の世界へ旅立っていくのである。




私がこの美しくも狂った頽廃の街東京に出てきて、早16年も経ってしまった。
16年といえば高校1年生になるくらい。
童貞を卒業し、煙草を覚えバイクも乗りまわし、髪が茶色くなるとコカコーラを頭にかけまくり、それは無駄だと知り
親の財布から失敬した金でこっそり集めていたカードダスやキンケシを目を滲ませながら、
精霊流しの如く川に流すような年ごろである。
そんな少年が大人になっていくような長い期間、この東京で腹這いになりなが
日々なにかを欲しては、未だほとんど何も手に入れられない生活を送っているのである。

そもそも、出てくるきっかけはささいな青臭い希望だった。
田舎でママチャリを爆走している内に、高校も卒し、
『デ・ビュー』なる恥ずかしいタイトルの雑誌に目を通していたとき
ある募集要項が気になった。気になりすぎて、応募してみることにした。
それはとある舞台のオーディション情報だった。
とりあえず書類選考は通り、東京は目黒でオーデションを行なうので来いと書面での連絡が着た。
そのオーディションに受かれば、大手事務所所属となり
舞台の稽古に励みながら海外公演までするという。
私はオーディションの日に合わせ、その前日に夜行バスで上京してきたのである。
が、結果は二次選考で落選。
俳優の安藤政信は、高校三年生を留年し、卒業試験のせいでいつも乗らない電車に乗っていたところ
大手事務所のスカウトマンに声をかけられ、就職先も決まってないし、まいっか、といったノリで所属し
すぐさま『キッズリターン』の主演を射止めるという、私が大好きな話しとは大違いである。
私の場合は、上京初っ端から出鼻をくじかれる不格好となってしまい、
あるゆる目論見は上京2日で霧散してしまった。

その時点で、すぐさま田舎に引き返せばよかったのかも知れないが、
当時18歳の私はそのオーディション自体を「なかったことにしよう…」と思い
東京での生活を始めることにしたのである。

そして四畳半の居室で生活ともいえぬ生活を始めながら
数カ月も経った頃、同じくその『デ・ビュー』をパラパラと捲っているとき、
ギョッと目を剥いたのである。
件のオーディションに合格したという少年が写真入りでインタビューに応じていた。
インタビューのなかで、彼はこう答えていたのである。

「友だちと数人でブラブラ池袋を歩いていたら、声をかけられて、今度舞台のオーディションがあるから
受けにこないかといわれて…」

要するに、事前にスカウトなるものがあり、その彼はもはやその時点で
複勝圏内には入るであろう約束をもらっていたようなものである。
そんな事前情報など、当たり前だが露ほどにも知らない愚かな私は
デキレースに参戦するための噛ませ犬の一員として、
田舎から青臭いカビの生えたような”夢”のようなクソを、胸いっぱいに詰め込んで
はるばるこの東京にやってきたわけである。

失敗からはじまったこの東京生活なのである。
とあるB級グラビア嬢がおり、その娘の彼氏は役者だそうだ。
役者の彼は他のB級グラビア嬢と二股をかけているそうである。
SEXの度に彼は彼女の右の襞だけ伸びるように引っ張っていて、
もう片方のグラビア嬢はSEXの度に左の襞だけ伸びるように引っ張られているそうである。

そのB級グラビア嬢2人の写真を検索して見たが、どっちも可愛らしい。
キャバクラにいたら、NO.1は間違いないルックスではある。
けど売れないんだろうなきっと……だってそんなビラビラ片方だけ引っ張られてるんだもんな。
というレベルの娘たちだった。


色々と切ない夏である。


そんな切ない夏の最中、私は数年振りに近所の歯医者に通っている。
昨年末、39度の原因不明の高熱を出し続けていた私は、
虫歯の菌が原因かも知れないと思い、高熱でボロボロのよちよち歩きの身体を引きずって
近所の歯医者に向かった。
診察の結果、原因は分かりませんとのことで無駄足に終わったかに見えたが、そうではなかった。
まだ開業して間もないそのデンタルクリニックには、キャバ嬢にしか見えない歯科助手たちが
クリニック内を闊歩している。
化粧濃すぎ、髪茶髪過ぎ、色黒も色白もおり、黒髪色白もいる。
診察カードに書きこまれた字は小学生かというほどにみみずが野太打ちまわっている。
しかし、口の中に指を突っ込まれ、顔のすぐ横には「おっぱい、ちょっと当たってるんじゃねーの?」
という超接近戦を繰り広げてくる。患者のニーズに余すことなく応えてくれそうな頼もしさを感じてからの
初通院が今年の夏の初めであった。

昔通っていた完全個室の歯医者があって、そこもかなりのスキルを駆使する歯医者だった。
「痛かったら手を挙げてくださ~い」と歯科助手。
歯を弄られるが痛さはないまま進行。すると、ズキっとくる痛みが。
思わず手を挙げようとすると、しかめた私の顔に柔らかいモノがぼよーんと乗っかってくる。
挙げようとした手を思わず引っ込める。
「こ、これは…手を挙げちゃいかん!! この姿勢を崩してはならぬ!!」
と覚悟した私は痛さをおっぱいの柔らかさで相殺させつつなんとかやり過ごす。
痛みが消えると、顔に乗っていたモノも無くなる。
ああ、これは、歯科技術なのだな、と一人納得。


そんな歯科助手スキルを求めて、私はいま、先ほどの近所のキャバクラ歯科に通っている。
キャバ嬢みたいな女子に口の中に指を突っ込まれ、おそらく私の唾液も少しは顔にかかっているのかも知れない。
その上、虫歯までも治してもらって、お会計は1000円前後ときたものだ。
普通のキャバクラでは口の中に指を突っ込んで貰えないし、そんなにお安くもない。
素敵な歯医者を見つけてしまったなと、しみじみ感じる夏の午後――。


ちなみに先生の方は、大人計画の村杉蝉之介にそっくり。
まったくもって、男の気持ちがよく分かっておられる蝉之介先生である。
誰しもが、はじめて携わる仕事には幾分かの緊張を伴ってしまうのであろう。
ここで一つブチかましてやるぞ、という野心や、失敗したらどうしようという
弱気な気持ちもゴチャ混ぜになりながらなんとか結果を残してゆき、
その仕事でのキャリアを築いていくものなのかも知れない。
どんな仕事であっても、最初の手ごたえ、周りに与えるインパクトで
その仕事を続けていくか、諦めてしまうかの岐路に立たされる時が必ずやってくるのである。


私が東京に出てきて深夜労働に従事する前。
高校生の頃、数多くはないが、いろいろなアルバイトをした。
高校生なのでもちろん健全な日勤であった。はじめて従事したアルバイトは時給710円。
近所のスーパーで店頭で野菜をおばちゃん相手に売ったり、発砲スチロールの上の野菜にサランラップを巻いたりしていた。

スーパーで働き始め、2、3カ月も経つと少しずつだが慣れてきた。
バイトの前日に朝方まで友だちらと遊び呆けていた私は、そのままスーパーの朝市に就いた。
徹夜したあとでバイトに出るなんて、渋い高校生だなどと自分で酔いしれていたが、店先で野菜を売っている季節は
寒風吹きすさぶ真冬の朝であった。
朝から猛烈な勢いで野菜を漁りにくるおばちゃんたち相手に、徹夜明けの高校生がガタガタと震えながら
野菜を売り勘定を暗算しながらさばいていた。私は算数が大の苦手であるからして、
ぐでんぐでんの頭で野菜の値段を計算して、よく計算違いをしておばちゃんたちにたしなめられていた。
徹夜明け、慣れない暗算の嵐、寒風吹きすさぶ屋外に加え、おばちゃんyたちの四面楚歌。
私は時間を追うごとに具合を悪くしていき、おばちゃんに「ちょっとアンタ、顔が白菜みたいに真っ白になってるで」
などと言われるほど、青ざめていた。風邪をひいてしまったのである。
具合が悪いから少し休ませて欲しいと社員に告げたが、若いモンが何を言うで片付けられ、
白菜顔の私は野菜とおばちゃんに囲まれながら冷たい風にさらされ、
もはや小学生低学年レベルまでに落ちた暗算を駆使しながら格闘していた。
それから数時間狭いテントの下で働いた私は、もうお釣りを幾ら間違えているかなど
なにも分からない状態で、気持ちが悪くなっており、少し客足が引くと気も緩んだのか、
商品(野菜)にかけないように精一杯の心遣いも出しながら、テントから駆け出て、
コンクリートに這いつくばり、激しく嘔吐した。
周りではおばちゃんたちの悲鳴や嬌声、歓声が聞こえていた。
そんな私の姿を見つけた社員は慌てて私に駆けより、トイレで背中をさすりながら
「もう帰っていいよ。それで、来なくてもいいから……」
と言ってくれた。

きっと、あそこにいたおばちゃんたちは、家に帰り台所に立って野菜を刻んでいるときに
私が嘔吐した姿を思い出し、野菜を刻む手を止めたであろう。
家族が集まり野菜炒めなどを食べているときに、おばちゃんは
「今日な、スーパーで若いバイトの男の子がな、急に戻してビックリしたんよ」
などと言い、家族から「飯食ってるときに、汚い話しすんなよババア!!」とか子供に言われながら
家族団欒をしているのだなと回想する。

いや、本当に申し訳ないことをしてしまったと今になっても思うのだ。
そのスーパーは今はもう潰れてなくなってしまっているのだが、
前を通るたび、激しく嘔吐しながらも野菜を売っている蒼き自らの姿を思い浮かべるのである。
夜の労働を終え、昇ってきた太陽が眩しい時間帯。
オンナを歌舞伎町のドンキ前で待たせる。
こちらは仕事明けだが、オンナはもちろん寝起き。
寝起き早々、歌舞伎町に呼び出されるオンナ。
そのぞんざいで卑猥な扱いが、朝から欲情をかきたてる。

オンナを待たせている間、私はドンキ内のアダルトコーナーで大人の玩具を物色。
実物よりもはるかによく働いてくれそうなバイブ! 快楽の彼方まで滑らせてくれそうなローション。
それに「フィンガーバイブ」という、子供には到底分からぬアダルトな玩具を発見。
5本の指にそれぞれサックのようにハメ、
個々の指先がスイッチオンで大人のヴァイブレーションを奏でてくれるらしい。
神器を購入し、待たせたオンナに性ハロー。


イイ店を知っていると、得意げな顔で24時間営業の安居酒屋に連れ込む。
オンナは怪訝な顔をしているが、泥のようなカニ味噌をつつきながら
しこたま安酒をあおり続けると、朗らかなスケベ顔に変わってゆく。
働いているのは、出稼ぎ中国人のオッサンと、田舎顔のムチムチ系女従業員。
オンナがトイレに行く間、すかさず田舎ムチムチに注文がてら、メールアドレスを渡しておく。
その後、戻ってきたオンナとどーでもいい話しを続けながら、昼過ぎにオンナと歌舞伎町に繰り出す。

昼キャバ、ヘルス、サイヤ人のような頭をしたキャッチ野郎の間をすり抜けながら、
目指すはホテル街。真実一路。

ホテルの部屋で再び酒をあおりながら、購入したブツの点検をオンナの体で入念にチェック。
チェックが終わるとオンナは本番に備えるためシャワーに向かう。
私はソファから立ち上がり塞がれた窓を開けると、爽やかな日差しが差しこんでくる。
咥え煙草のしかめ面で窓を固く閉ざし、ローションの蓋を開け、バイブをオン、
それからフィンガーバイブの完全装備を済ませたあと、フロントに「OL制服(コスプレ)」を発注。

オンナが風呂から出てくると、完全装備にガウン姿の私は、
冷蔵庫から冷たい缶チューハイとOL制服を手渡し、あごで着替えを促す。
もうプレイははじまっている。


オンナの本職は”事務系OL”とは程遠い、ナウでヤングなアパレル系。
そんな洒落た仕事を日々頑張っているオンナは、
休日の昼間、歌舞伎町でOL姿に缶チューハイ。トイレから着替えて出てきたオンナは、制服がとてもミスマッチ。
私は、えもいわれぬ激昂を覚え、オンナをベッドに押し倒す。
すべてを受け入れようとするオンナに愛しさと切なさと……心強さは感じないが、
激情のなかに一抹の優しさを潜ませながら、快楽の果てを目指しオンナの身体に飛び込んでゆく……。



辛い辛い深夜労働の合間、
私はそんな妄想に逃げ込みながら、眉間にシワを寄せているのである。
私は深夜労働に携わる者として思うことがある。
世間様が体を休めている夜の間、せっせと働き夜明けと共に疲れを覚え、
昼間のスーパーに並べば、主婦や高齢な方々の列に入り大量の酒を買おうとしていたりする。
前に並ぶ主婦が酒の入った私のカゴをちらりと見ては蔑んだような顔になる。
まあ、そんなことにも慣れた。ちょっと被害妄想も入っているが。


たまの休みになると、夜に外出したくなる事が多い。
飯屋や飲み屋に入り、酒を飲む。夜に飲む酒は昼に飲む酒よりも間違いなく美味い。
これが本来の酒の味であるとさえ思えてくる。

そんな私も過去に幾度か、合コンなるものに参加したことがある。
仕事はもちろん休みで、夜に酒が飲める上、香ばしい女子もいる。
これほどテンションが上がることがあるだろうか。


見ず知らずの男女がぎこちない感じで酒を酌み交わし合コンはスタートした。
小一時間も経つと、場も和み、酔いも手伝ってそれぞれなんやかんやと話しはじめた。
すると一人の女子が我々男性陣の出身地を聞きはじめた。

私は関西出身であるというと、もう一人の女子が
「アタシ、関西弁好きー。関西弁で喋って欲しいナ」
とブチかましてきた。こんな分かりやすいセンタリングがあるだろうか。
こんなセンタリングには、ダイレクトボレーで合わせるのが礼儀というものだ。

しかし私は、関西出身のくせに、あまり関西弁が好きではない。
昔からそうであった。その理由はなにかと問われるとハッキリとした答えがないのだが、
「下品に聞こえる」というのがあるかも知れない。
関西弁はフレンドリーな感じがする、という意見も聞いたことがるし、なんとなく分かる気はする。
がしかし、当たり前だが、それは良い面であって、エゲつない面の方が多い。
柄は悪いし、関西弁でクロストークをしようものなら、喧嘩にもなりやすい。
たとえば、

「……今のは、お前が悪いんとちゃうか?」
「なんでやねん! どこが悪いねん!?」
「せやから、そういう態度が良くない言うてんねん」
「は? なんでそんな事お前みたいなんに言われなあかんねん、ボケッ!」
「ボケってなんやねん!! お前はアホやろが!!」
「アホ言うなや、カスのくせに!!」
「おうコラお前!! 誰にカスぬかしとんねん、シバクゾ!!」

と、まあ、関西弁は語尾に相手をけなしたり挑発する言葉が付属しがちなので、
どうにも喧嘩になりやすい気がする。


しかし、そんな良いセンタリングを上げられたからには、乗らないといけないという
関西根性丸出しのスケベ根性も出てきてしまうのが関西の血なわけで、
それからしばらくは必死に女子を喜ばせようと、関西弁丸出しで話し続けた。そうすると
「標準語よりも、絶対関西弁の方がいいよー」
などと言われ、調子に乗った私はビールのおかわりも頼み、
鼻の下伸ばしっぱなしの下心丸出しの関西弁丸出しトークで、
なでしこのセンタリングに合わせ続けた。


すると、席の隅の方から突き刺さるような視線を感じた。
えへらえへらと関西弁を話し続ける私は、ふと視線の出所を探った。
そこには、一人渋く焼酎ロックを飲み続けながら、
冷めた目で私のことを見ている女性がいたのである。

「んな事言われたからって、調子に乗って喋ってるなぁ、アイツ。マジだせー奴だわ。絶対!」

という軽蔑の目があった。
私は、パタリと関西弁を止めてしまい、その子の方をまともに見れなくなった。
私は恥ずかしい気持ちでいっぱいになってしまった。酔いも醒めた。

そう、あの視線は、戒めだった。
(彼女もいるのに)合コンで調子に乗ってしまっている私への戒めそのものだったのである。

「なんや自分、ノリ悪いんとちゃうか~?楽しまな損するで損!」

などと言いながら、近寄っていけるほど図太い男ではない私は、
実は、そういう冷めたオンナに惹かれてしまう傾向がある。