輪島の人々を紹介する輪島未来通信の第二号です。

 

輪島塗に限らず、輪島に住む人々を2024年2月末日まで取材していきたいと思います。

 

なぜ、このような企画が始まったかと言うと、SNSやホームページでの発信が当たり前になり、そうしたものを駆使して広く支援を呼びかけられる人と、そうでない人との格差を感じたからです。

 

その人が発信できないことを、代わりに発信する。

地域新聞を編集発行する私にだからこそできることの一つでしょう。

※情報は2024年1月27日時点です。

 

 

今回取材したのは小山田勇樹さん(仮名、30代前半)です。

 

 

小山田さんは輪島で沈金師の職人として独立していました。

 

沈金とは、漆器の表面を専用のノミで彫り、漆を接着剤として金粉などを装飾し、鮮やかな模様を生み出す技術です。

 

 

小山田さんは元々石川県外に住んでいましたが、22歳の時に沈金が施された輪島塗をみて衝撃が走ったと言います。

 

「うつくしい、これを作ってみたい」。

 

23歳、すぐに輪島市に住み、石川県立輪島漆芸技術研修所で計5ヶ年学びました。

※匿名のために卒業作品を掲載できないのが勿体ないほど見事な沈金を施します。

 

その後に、職人に弟子入りし、そこで4年間過ごしました。

 

そして、今から1年前に独立。

 

 

独立までの道のりは相当厳しかったそうです。

 

昔は発注も多く、数をどんどんこなして技術を吸収していけたそうですが、現在は技術を向上する機会そのものが減っています。

 

弟子を獲る親方も少なくなり、小山田さんの独立は彼自身の決意と努力の賜物。借家ですが、住宅兼工房を構えました。

 

 

小山田さんには妊娠中の奥様がいます。

 

奥様も研修所の卒業生で、奥様は輪島朝市で小さな屋台を出し、夫婦二人三脚で一生懸命に暮らしていました。

 

 

時は元旦。

 

 

奥様は出産に備えて関東の実家に戻っていました。

 

小山田さんが輪島市内で外出している時、大きな揺れが襲いました。

 

家を確認してみると家は傾き、家の中がめちゃくちゃになっていました。

 

預かっている製品も損壊してしまったものがあります。

 

明らかに住める状態ではありませんでした。

 

 

制作道具も一部は取り出せましたが、傾いて開かないふすまの先にある道具もあり、どんな道具が手元に残るのかどうかも全く分かりません。

 

職人の命と呼べる道具を取り出したいのが本心ですが、取り出し作業中に家が倒壊する可能性があり、そのままにせざるを得ません。

 

 

被害は甚大で今、小山田さんは関東の奥様の所に身を寄せています。

 

輪島に戻るとしても、住居兼工房を借りる形になりますが、大家さんが建て直すのか、また違う場所が見つかるのか、何も分かりません。

 

現状としては、最長1年間住める関東の支援住宅に入居することになっています。

 

 

もうすぐ子どもが産まれます。

 

 

産まれたばかりの子どもと一緒には戻りづらい。

 

せめて子どもと一緒に住める状態になるまでは輪島には戻れない。

 

「戻りたい気持ちはあるんだけれども…」。

 

気持ちと惨状がうまく噛みあいません。

 

 

今後の仕事のことを聞きました。

 

 

以前から輪島以外の漆器屋さんから発注をもらっており、それをこなすことで生活することはできるようです。

 

残っている道具で今受注している作業に取り組みます。

 

支援住宅の一室からスタートです。

 

 

一旦離れることとなりましたが、小山田さんは輪島のことを「大好きな場所です」と小山田さんは言います。

 

奥様も思い入れが強く、朝市の屋台も燃え尽きてしまいましたが、映像ではなく現場に戻ってみたいと思っています。

 

夫婦ともに子どもが産まれた後の輪島での生活をイメージしていたことでしょう。

 

 

しかし、その大好きな場所は激変してしまいました。

 

 

朝市ではご近所さんとも仲良くしていて、輪島の生活を失ったショックは計り知れません。

 

親しくしていた30代の女性は行方不明者リストから今も名前が消えません…

 

そして、悲しいことに、小山田さんが現地をいくら気にしていても、「現地にいないと、輪島が今後どのように復興していくのかなど情報が入ってこない」と言います。

 

 

地震が輪島塗生産地と職人をどんどん離してしまう。

こうした状態もまた輪島塗業界で起きている1つの過酷な現象でしょう。

 

 

小山田さんが取材に答えてくれた理由、それは「輪島塗のことを、そんなに簡単に切り替えられない」からです。

 

 

「輪島塗の衰退が加速するのを止めたい。今の状況を知ってもらいたいです。

 

今回の被災でこの仕事を辞めようかという人も何人も出てきます。

 

でも、輪島塗は分業制だから、みんなが立ち上がらないと復興できないんです」。

 

 

小山田さんとの話を通じて、一度離れた人も再び結び付けられる、そうした社会づくりと支援が必要だと痛感しました。

 

 

※今回は匿名が条件でしたので連絡窓口は設けておりませんが、プロジェクトに連絡頂ければ小山田さんに転送いたします。

 

 

プロジェクトの概要は下記より。

能登半島被災地支援 輪島塗・未来工房プロジェクト

 

募金専用口座

関西みらい銀行 鶴見支店

普通 0193298

輪島塗・未来工房プロジェクト