「あなたは金星に残るはずだったんですよね」

 

ピンク色で少し刺激のある液体を飲みながら

 

ハビは僕にそう言った。

 

あれは、金星を旅立ってどのくらい経ってからだったろう。

 

「ずっと気になっていたのです」

 

ハビは青色で苦みと辛味のある飲み物を

 

僕のために持ってきてくれた。

 

この飲み物を飲むと不思議と頭の中がすっきりした。

 

「あなたがいてよかったです」

 

面接会場で僕を見つけると

 

ハビは僕に走り寄ってきて僕に言った。

 

「心細かったですか」

 

「そんなことはありません。いえ、やはりそうなのでしょうか」

 

「あなたはもう旅立っていると思っていました」

 

「そうですね」

 

「少し事情がありまして」

 

「今ごろおじいさんとおばあさんはどうしているだろうね」

 

僕はケイルの両親のことを思い出していた。

 

「元気でいてくれていると思います」

 

「お孫さんもいますし」

 

ケイルは金星で知り合った女性と結婚して

 

子どもが二人いた。

 

「ピサより先に宇宙に行くはずだったんだけど」

 

ケイルは最後に会った時、

 

くすんだ白い空を見つめながらそう言った。

 

「ハビをよろしく」

 

そう言ってケイルは僕の前を去った。

 

もう有紗の顔さえ思い出せない。

 

「帰ってくるんでしょう」

 

うつろな有紗の目から

 

あきらめの感情をすくい取ることができた。

 

別に有紗にかぎったことじゃない。

 

誰もが、僕が金星に戻ることはないと思っていた。

 

淡い期待さえ持ち合わせていない。

 

「僕がここに戻ってくるときは、みんなを迎えに来るときだ」

 

そう告げて、僕はみんなと別れた。

 

ハビだけを連れて。