我先に地球から金星の向かった

 

あの悪夢のような日々が

 

近い将来金星にも起こる。

 

誰もがそう感じていたはずだった。

 

ただ、多くの人は

 

自分の生きている間には

 

そういうことは起こらないだろうという

 

何の根拠もない楽観に支配されていた。

 

あれだけの思いをして逃れてきた地球でさえ

 

特に何も起こらず

 

以前のままの状態を保持していた。

 

そんなムードとは別に

 

金星から広大な宇宙へ向かう計画は

 

着々と進められていた。

 

金星に人があふれはじめた時期は

 

金星を仮住まいとしていた人々をのせて

 

多くの宇宙船が旅立っていった。

 

ところが、ある程度落ち着いてしまうと

 

金星から宇宙に旅立とうとする人は

 

激減してしまう。

 

「ねえ、あなた本気なの」

 

有紗は疑いの目で僕を見つめる。

 

「行ってくれって言ったのは、有紗じゃないか」

 

「それはそうだけど、本当に行くとは思わなかった」

 

「この場合、私とあなたはパートナーを解消しなければならないのよ」

 

「今後、また会える見込みがないのだから、それは当然だよね」

 

有紗は志願者を募るノルマが課せられていた。

 

彼女は僕が志願しても

 

間違いなくはじかれると思ったのだろう。

 

実を言うと僕もそう思っていた。

 

書類選考で落ちると思っていたので

 

面接の通知が届いたときは

 

二人とも驚いてしまった。

 

「大丈夫」

 

面接の時に、きちんと面接官に

 

宇宙船に乗る意思が薄れてしまったことを言えば

 

それでいいはずだった。

 

有紗も上司を通して

 

僕が不適合になることを

 

取り計らってくれていた。

 

そう、その予定だったんだ

 

面接会場でハビに会うまでは。