ハビが遠くの空を見ている。
巨大な宇宙船がガスの海の上に浮いていた。
そのとなりの宇宙港には
ひっきりなしに貨物船が到着し
そして出発していた。
整然とした街並みは
人々の熱気と活気のある商店群の
雑然とした街並みに非変化していた。
金星への移住者は後を絶たず
金星の統括部は増えすぎた人口に苦慮している。
「生きているのが楽しくてたまらないんです」
ハビが笑顔で僕に言った。
「もしかすると、ここが太陽系で一番活気のある場所かもしれませんね」
僕の言葉にハビがうなずいた。
ハビはケイルのパートナーにはならなかった。
ただ、そのことを気にしている様子もない。
ハビはケイルの両親の養子になり、
ケイルとは兄弟になった。
「僕は宇宙船に乗ろうと思っているんだ」
数日前、ケイルは僕に突然そう言った。
「どうしてだい」
「ここ以上に居心地のいい場所はないじゃないか」
「居心地が良すぎるんだよ」
ケイルの言葉に不意をつかれた。
僕は安住の地で気が抜けてしまったのだろうか。
「それでいいじゃない」
有紗が僕に言う。
「あたしは相変わらずだけど」
有紗の仕事は、一時にくらべると落ち着いてきている。
それでも、忙しいことには変わりがない。
「それにね、あなただっていつどうなるかわからないのよ」
「この金星だって」
急激な変化がひずみを生みだしているのは事実だった。
犯罪も増加している。
「そのうちゴミ溜めみたいになっちゃうかも」
ガスの海をながめていると
ここが人間の住む場所ではないことがよくわかる。
ガスの海の上につくられた浮島は
金星のほんの一部でしかないんだ。
「私はオプティミストなのでしょうか」
「この海が地球の海のように青くなるように思えるのです」
ハビが僕にそう言う。
「でも、あたし青い海を見たことはないんです」
「僕だってないですよ」
「青い海を知っている人間なんてもうとっくの昔にいなくなってしまった」
