「火星はどんなところだったんだい」
計器を見ながらケイルが僕にきいた。
「緑色だったよ。昼も夜も」
「地球みたいに」
「もっと暗いし、寒々としている」
「寒くはないんだろう」
「たしかに、気温は快適に保たれてはいるけれど」
「体感ていうか、気分の問題かな」
「同じ気温なら金星のほうが暖かく感じるよ」
「それはわかる」
「金星にくらべれば、地球も寒々している」
「地球のことはもうあまり記憶がないんだ」
「そんなに時間が経っているわけでもないのに」
「もう忘れてもかまわないさ」
ケイルは僕を見て笑った。
「そうだね」
僕もそう言って笑う。
「家族は無事着いたのかい」
「おかげさまで」
「もっと早く来ればって言ってるよ」
「家族は奥さん」
「僕はパートナーがいないから、父と母だよ」
「パートナー以外は家族じゃないって人がいるけれど」
「徹底して教育されるよね」
「実際、そう変化してしまっている」
「君たちに子どもはいないのかい」
「子どもっていっても、自分たちの遺伝子を引き継いだっていうだけだから」
「年齢に達すると離されちゃうからね」
「それが嫌だってこともあって、僕たちには子どもがいない」
ケイルは立ち上がって
背面にある計器をチェックし
半透明のタブレットにチェックを入れる。
「僕と親が住んでいたのは少し特殊なところでね」
「アルミテなのかい」
「ではないけど、隣接している」
「交流はないっていうのは建前で、長い年月の間にお互いの考え方も変わってくる」
「だから僕たちの根底には、家族を大切にするっていう精神があるんだよ」
「それなら、なおさらパートナーが必要じゃないか」
「そうだね」
ケイルが席に戻ると、部屋の中に電子音が響く。
「予鈴だね」
僕とケイルは交替のための引継ぎ作業に入った。
作業に集中するため二人とも無言になる。
交替要員が入ってきてたので、
僕とケイルは引継ぎをすませ部屋の外に出た。
「今度家族を紹介するよ」
ケイルが明るい声で僕にそう言う。
