「本当は知っていたのですか、調査官」

 

ベアノの質問に調査官は微笑みで答えた。

 

「金星の環境はもうすっかり整っているみたいですね」

 

ベアノは自分たちを包んでいる、

 

淡い緑色を恨めしそうに眺める。

 

「未来は火星にあります」

 

「もしかすると、金星は太陽に取り込まれてしまうかも知れません」

 

「そう遠くない将来に」

 

カラミの無表情な言葉が共有スペースに響く。

 

「あなたも金星に行きたいのですか」

 

「そんなことは」

 

「金星の整備を早める必然性があったのです」

 

「中継基地としての月はもう手一杯ですから」

 

「そのことは理解しています」

 

「金星は地球にいる人類を一時避難させる場所に過ぎません」

 

カラミはそう言って立ち上がり

 

遠くの夜空を眺める。

 

「火星が最終地になるのですね」

 

ベアノの言葉にカラミの表情が少しゆるんだ。

 

「残念なのですよ」

 

「サクはここでそれを実現させる貴重な人材でした」

 

「もちろん、あなたも含めて」

 

「どうして、囚人まがいの人ばかり送り込んでくるのか」

 

「ここは牢獄ではないのです」

 

カラミはこうつぶやいた後、

 

共有スペースの出口に向かって歩きはじめた。

 

「期待しています」

 

「お嬢様は気楽なもんだよな」

 

カラミが出て行った後、

 

タックが穴倉からひょっこり頭を出してベアノに言う。

 

「俺達を囚人の監視人ぐらいに思っているんだろう」

 

「まあ、そこはうまくやらなきゃならないんだが」

 

「あの人もそれなりに追い込まれてるのさ」

 

「そんなもんかね」

 

タックは穴倉から出てきて

 

サーバーから飲み物を取った。

 

「どうして、嬢ちゃんたちはあいつらを押し込めておくんだい」

 

「もう少し楽にしてやりゃ、効率も上がるのに」

 

「あの人たちには、そんな発想がないのさ」

 

ベアノもサーバーに近づいて飲み物を取った。