昼間は、ずっと白い雲におおわれている。
僕を包み込む白い光は、地球の曇りの日よりも強い。
白く厚い大気に覆われた金星。
その下に、透明な空気がガスの海までつづいている。
長い年月にわたって作り上げられたこの透明な空気は、
ほぼ完成に近い状態らしい。
火星で聞かされた状況よりも
遥かに進んでいる。
くすんだ地球の空気の中で過ごしてきた僕にとって、
金星のクリーンな空気は人生初の体験であり、
感動的ですらあった。
「白い大気を抜けるときって、どんな感じだったの」
有紗の笑顔がすぐそこに見えた。
火星でみた、小さな画面に映し出された有紗ではなく、
手をのばせば触れられそうな有紗。
もうすぐ、疑似体験もいらないんだ。
有紗のぬくもりのある肌に直に触れられる。
有紗の声が空気の振動をつたって聞こえてくる。
「若干、抵抗は感じたけれど」
「実際に見たわけではないからね」
「白い大気は、電波を通さないんでしょう」
「そう、だから軌道上まで有線でつないでいる」
「有紗は今どこにいるんだい」
「さっき月に着いたところ」
「不思議だね、地球を外から見るのって」
「でも、もっと青いのかと思ってた」
「それが、今の地球の現状なんだよ」
「そろそろ切るね、回線が込んでいるみたいで」
「わかった」
僕は自分の部屋から、
整然とした街並みを眺めてみた。
昔、画像や写真で見たことのある、
最盛期の地球の街並みよりもクリーンで質素に見える。
ここはガスの海の上に浮いた
フローティング・アイランドだ。
建造物のすき間に飾られた植物の緑が美しい。
火星の人工的な緑と違って、自然な緑に見える。
それでも、これらの植物は、
光合成をしているわけではないらしい。
