「ねえ、あなた」

 

「あたしたち、つけられてない」

 

「自意識過剰じゃないのか」

 

「ポークサンドがいけないのよ」

 

「ビーフだろう」

 

女はしきりに後ろを気にしている。

 

男はもう、なすがまま

 

それしかないと流れに任せる。

 

男がさっきの雑貨屋を見て立ち止まる。

 

女はそんな男を見て男の腕を引く。

 

「なあ、入ってみようよ」

 

「いいから、行きましょう」

 

「入ってみれば、つけられているか分かるかも」

 

男と女の目が合う。

 

「雑貨屋に入るみたい」

 

彼女が彼に言った。

 

「通り過ぎよう」

 

「ダメだよ」

 

「それじゃ入るの」

 

彼女はスタスタと彼の先を歩いていく。

 

「どうする気」

 

「豚を見つけるのよ」

 

男は雑貨屋に入ってくる女に気づいて

 

とっさに彼女の視線を遮る。

 

「出よう」

 

女が自分の背中を通り過ぎたのを確認して

 

男は彼女の手を引いて外に出る。

 

彼女の視線が雑貨屋に入ってくる男の視線と交わる。

 

「ねえ、豚の木彫りの人形あったよ」

 

彼女が店に入ってきた彼に声をかけた。

 

「ねえ、それは豚じゃなくて牛じゃないの」

 

彼女が手にしているものを見て彼が言う。